朝方人間の方がなんとなく健康的な感じがしますが、そこには因果関係があるのでしょうか?
つまり、朝方「だから」健康なのか?
言い方を変えると、朝方「にすれば」健康になるのか?
この問いに向き合った最新の研究を紹介します。
朝方にすると食事の質が良くなる?
夜型が肥満、糖尿病、心血管疾患などの高いリスクと関連することは、以前より示されていました。
逆に、朝方なら健康に良いと。
しかしこれは、「朝方・夜型」が原因なのかは微妙です。
夜中の労働環境が悪い中で仕事をしていることこそが原因で、その結果夜型なだけかもしれない。
相関関係を言うのは容易いですが、因果関係を言うのは非常に難しいです。
つまり問題は、
朝方人間が健康に良い行動をしているのは、その人が「朝方だから」なのか。
朝方人間は食事の質が良いと言うが、それはその人が「朝方だから」なのか。
この問いにMendelian Randomizationという手法を用いて答えた研究が発表されました(Am J Clin Nutr. 2020;112(5):1348-1357)
この記事では、この論文を解説していきます。
*Mendelian randomization (MR)という方法は、「遺伝子変異がランダムに割り振られる」ため、Instrumental variableの性質を持つ、ということを仮定することで、交絡因子の調整をせずに因果関係を言及する手法でした。
この手法の詳細についてはこちらを参照下さい。
どういう研究?
2-sample MRという手法です。
そもそもMRとは、
「暴露因子→アウトカムの因果関係」=「IV-アウトカムの相関関係」÷「IV-暴露因子の相関関係」
でした。
*IV (instrumental variable)とは遺伝子の事でした。
2-sample MRは
「IV-アウトカムの相関関係」と「IV-暴露因子の相関関係」とを別々のコホートで算出する!
というもの。
本研究では、
IV: 朝方に関連する遺伝子変異
暴露因子:朝方であること
アウトカム:それぞれのfood groupの摂取量(アルコール、シリアル、フルーツ、加工肉、水 etc)
とし、
IV-暴露因子の関連を23andMeのコホート(遺伝子調査する会社です)
IV-アウトカムの関連をUKBioBankというコホート(ヨーロッパの大規模コホート)
で調べました。
*食事についてはFFQと24h diet recallの2つで定量化しています
*multiple testingはFalse discovery rateで調整しています
結果・・・
朝方だと
・シリアル(特に全粒粉の)、生フルーツ、アルコールの平均摂取量が多く
・ビール、熱い飲み物、加工肉、生クリームの摂取量が少ない
結果となりました。
一番関連性の強かったのは生フルーツで、
寝る時間の中央値より1時間早いと、1日0.5 serving程度多い
結果となりました。
色々な感度分析を行っていますが、同様の結果でした。
解釈は?
朝方ということが、良い食習慣を送ることの原因になるかもしれない、と示唆する論文でした。
解釈には注意点がいくつかあります。
✔「朝方」ということが自己申告に基づいています
具体的には、morning person ~ evening personの5段階のアンケートに回答するという形。
これがどれくらい信頼性をおけるか、やや疑問です。
*また、どうやって「寝る時間の中央値より1時間早い」ことを測定したか、記述がありませんでした
✔使われたfood groupがかなり限定的です
例えば野菜、大豆、コーヒーや紅茶、スイーツなどのカテゴリーがありません。
また、フルーツは多くなるとして、(健康に悪いとされる)フルーツジュースはどうなのか?わかりません。
*フルーツに関するエビデンスはこちら
また、著者らはpowerを増やすため(=サンプルサイズを増やすため)とlimitationに書いていますが、食事を扱う以上少し問題になりえます
→FDRでmultiple testingを調整していますが、そもそも解析対象となるfood groupが少ないと、調整される量も減ります。
✔2-sample MRが内包する問題
2つのpopulationを扱う以上、それらが同質であることが前提となります。
また、この記事で概説したMRのassumptionに関する問題が当然あります。
monotonicityも当然前提となっています。
以上から、面白いエビデンスで一部真実を掴めていそうだけど、当然確定的ではないだろう、というのが妥当なところかと思います。
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そもそも、(少なくとも日本において)「朝方にする」ということはめちゃくちゃ難しい行動変容です。
実際ある程度遺伝子で決まっているわけですし(Nat Commun. 2019 Jan 29;10(1):343.)。
そして仕事という要素は多大な影響があり、それを変えることは容易でない。
なので「朝方」が良いだろう、となっても、中々現実問題として介入が難しいわけですね。
むしろそこよりも、この研究でアウトカムになっている「食習慣」の方が、介入可能性のある生活習慣とも考えられます。
*それはわかっているけど、朝は(健康に良い)シリアル食べることが多いよね、という発想がこの研究の根本にあるのかと思っています。
結論
「朝方」だとフルーツの摂取量が多くなるのかもしれない。
が、決定的なエビデンスではない。
でもフルーツは食べたほうが良い。
ではまた。