コロナのワクチンは現在120以上が開発され、数多くの臨床試験が行われています。
有望なワクチンの一つ、mRNA-1273がPhase-1 trialを無事終了し、その報告がNEJMで発表されました。
評価項目は安全性と免疫獲得効果。
論文の中身を解説していきます。
新型コロナmRNAワクチン:Phase-1 trial
mRNA-1273という新型コロナウイルスに対するワクチンはmRNAワクチンの一つ。
メッセンジャーRNAをベースとした、SARS-CoV2のスパイクS蛋白(S-2P抗原)をターゲットとしたものです。
S蛋白は、ウイルスが侵入する際に重要となる蛋白で、ワクチンのターゲットとしては非常に有望と言われています。
ワクチンの開発期間は通常数年かかりますが、なんと2ヶ月で製品化されました。
早すぎでしょ。
今まで承認されたmRNAワクチンはありません。
…なぜか?mRNAワクチンは安定性に問題があるからです
→これを克服するよう工夫して作られたのがmRNA-1273です。
うまく行けば、初めてのmRNAワクチンとなります。
*ちなみにmRNAワクチンとは、ウイルスの害がない部分(S蛋白など)のメッセンジャーRNAを用いたものです。
→これが体内の細胞内に入り、体内でそのウイルスの蛋白(S蛋白)が産生されます。
→それを抗原提示細胞などが認識して、抗体を作り出すという機序です。
mRNA-1273のPhase-1 trialが終了、今週のNEJMで発表されました(NEJM 2020 10.1056/NEJMoa2022483)
Phase-1 trialとは基本的にヒトでの安全性をみる試験です。
結果的にOKだったのですが、中身が大事です。みてみましょう。
試験デザイン
この研究は、安全性とimmunogenicityをみる目的のtrialでした。
デザインはこんな感じです:
・対象は18-55歳で健康な方(PCRで感染スクリーニングは行われませんでした)
・day 1とday 29で、2回ワクチン接種されました(筋注、25, 100, 250µgのいずれか)
・安全性はday 8, 15, 36, 43, 57, 119, 209, 394に評価されました
・抗体産生はday 1, 15, 29, 36, 43, 57にELISAで評価されました
・T細胞反応性はday 1, 29, 43に評価されました。
*発表された論文はday 57までの追跡結果(interim report)です。
よって、長期の抗体保有率はわかりません。
45人が対象となり、最初のワクチンは3/16~4/14の間に行われました。
そのうち3人は2回目のワクチン接種をしなかったので、day36以降の評価からは除外されました。
*この3人の理由は:
うち1人は25µgワクチンを注射後5日で両足に蕁麻疹が出現したため。
2人はCOVID-19感染疑いで隔離されていたため(結局陰性でした)。
結果は?
<安全性>
深刻な全身性の副反応はなし。
*全身性の副反応とは、とは局所(打った箇所)での副反応以外のものをいいます
全身性の副反応自体はそれなりに生じました:
・1回目の接種では、25µg群33%、100µg群67%、250µg群53%
・2回目の接種では、25µg群54%、100µg群と250µg群は全員
→250µg群の3人は重度の副反応が生じました(39度以上の発熱など)
1, 2回通して半数以上の接種者に認められた症状は、疲労、悪寒、頭痛、筋肉痛、注射部位の痛みでした。
*これらが半数以上に認められたとは、結構多いですね!
<抗体産生>
S-2Pに対するIgG抗体のセロコンバージョン(4倍以上の増加)は、day15までに全員に認められました。
抗体量と投与量にはdose-dependentの関係が認められました。
*やや詳細な結果ですが:
✔pseudotyped lentivirus reporter single-round-of-infection neutralization assay (PsVNA)反応性については、投与前は誰にも認められませんでしたが、1回投与で半分弱、2回投与で全員に認められるようになりました。25µgはやや反応性が低い傾向がみられました。
✔live wild-type SARS-CoV-2 plaque-reduction neutralization testing (PRNT) assayにて、SARS-CoV感染力を80%以上減じることができるかという指標(PRNT80)を計測した所、day 43で全員に認められました。
<T細胞反応性>
CD4 T細胞反応性が認められ、特にTh1サイトカイン>Th2サイトカインでした。
CD8 T細胞反応性は低かったです。
解釈は?
最小限の安全性は担保され、抗体産生も認められたということでphase-1 trialはパスしました。
副反応は、higher dose, 2回目の接種でより高率・重症度高く生じました。
頻度はインフルエンザのmRNAワクチンと同程度だったとのことです。
でも半数以上に全身性の複数の副反応が生じるとは、かなり多い気もします。。。
S-2P抗体のセロコンバージョンは早かったですが、PsVNA反応性を得るには2回の投与が必要でした。
→これは、ワクチンを2回接種する必要性を示しているとのことです。
長期フォローの結果についても待たれます。それが分からなければ運用はされません。
phase-2 trialも15ヶ月くらいのフォローが必要だそうです。
まだまだです。
結論
mRNA-1273というワクチンがPhase-1 trialをパスした。
でも運用まではまだまだ長い。
ではまた。