納豆を食べると死亡率が10%低下する!?最新論文解説・考察

2020年1月、British Medical Journalというイギリスで最も権威の高い医学誌に、「発酵性大豆食品摂取と死亡率低下の関連」という日本からのコホート研究が掲載されました。この論文を「納豆を食べると死亡率が10%低下する!」と様々なメディアが取り上げ、話題となりました。本当に納豆を食べれば死亡率が10%低下するのでしょうか。

この記事では、このBMJ論文の背景、解釈についてわかりやすく解説しました。

 

納豆を食べると死亡率が10%低下する!?日本からの最新論文

納豆を食べると死亡率が10%低下する!?日本からの最新論文

元論文はこちらです:https://www.bmj.com/content/bmj/368/bmj.m34.full.pdf

 

論文のタイトルは「Association of soy and fermented soy product intake with total and cause specific mortality: prospective cohort study」であり、納豆に限らず発酵性大豆食品の摂取量と死亡率の関連性をみた研究です。

 

結論としては、発酵性大豆食品の摂取は低死亡率と関連した、とされています。

 

どういう研究なの?

約9万人の日本人を15年くらい追跡したコホート研究です。

コホート研究というのは、特に介入することなく、その9万人がどういう生活習慣を送ってどういう病気になったか調査したものです。納豆や味噌汁をたくさん食べる人もいれば、あまり食べない人もいます。どれくらいどのようなものを食べているか、どういう病気にかかったか、定期的にアンケート等を行って調査するわけです。

 

この9万人では15年間の間に、1万3千人くらいが死亡しました。これがアウトカムです。

大豆製品の定義は、豆腐、ゆし豆腐、高野豆腐、油揚げ、納豆、豆乳、味噌の摂取量 (g)の合計。

発酵性大豆食品の定義は、納豆と味噌の摂取量 (g)の合計。

それぞれ、摂取量の多い順に5段階に分け、一番摂取量が多い群と一番少ない群の死亡率を比較しました

 

ちなみにこの比較というのは、様々な交絡因子で調整されます。つまり、「年齢・居住地・喫煙・アルコール・BMI・運動量・糖尿病罹患率・降圧薬の服用・総摂取カロリー・コーヒー、緑茶、野菜、果物、魚、肉の摂取量・健診受診有無・閉経有無とホルモン療法使用有無(女性において)が同じとし、大豆製品摂取量だけが異なると仮定した場合、どれだけ死亡率が異なるか」という比較を意味します。そうすることで、単純な相関関係でなく、因果関係(大豆製品を食べることで死亡率がどう変化するか)を言及しようと試みています。ただランダム化試験でないと因果関係を確かめることはどうしても出来ませんが(詳細こちら)。

 

結果です

大豆製品はあまり死亡率と強い関連性がありませんでした

一番摂取量が多い群と一番少ない群の死亡率を比較すると、男性ではハザード比が0.98 (95%信頼区間:0.91-1.06)、女性では0.98 (95%信頼区間:0.89-1.08)でした。

 

発酵性大豆食品は低い死亡率と関連しました

一番摂取量が多い群と一番少ない群の死亡率を比較すると、男性ではハザード比が0.90 (95%信頼区間:0.83-0.97)、女性では0.89 (95%信頼区間:0.80-0.98)でした。

 

正しい解釈です

男性のハザード比0.90をもって、「納豆摂取により10%のリスク低下」と謳われたのでした。

しかし正確な解釈は、「男性において、年齢・居住地・・が同じと仮定した時に、納豆か味噌を最も摂取する1/5の群は、最も摂取しない1/5の群と比較し、死亡に関するハザード比が10%低い結果となった」です。より正確には、この集団の選択バイアスがないこと、residual confoundingがないこと、モデルが正確なことなど他にも沢山の仮定の下の結論です。あとハザードとリスクも異なります(ハザードは-log(リスク)の微分です)。

つまり、観察研究なので因果関係は直接言えません。「納豆を食べれば死亡率が減る!」という因果関係は示せていません。けれど、それを示唆する重要な報告だということです。

 

 

この研究の背景

この研究の背景

大豆はイソフラボンのように健康に良いとされる栄養素を含みますが、実は大豆摂取により死亡率という最も大事な指標を低下させるというエビデンスが今までありませんでした。詳細はこの記事にまとめていますが、今まで大豆の健康効果として言われてきたことは、2型糖尿病の罹患リスク低下や前立腺がんリスク低下等でした。

 

この研究の最も新しい点は、大豆製品の中でも発酵性大豆食品の長期的な健康効果を検証した点にあります。上記のように、大豆製品として検証すると死亡率には関連性はなく、過去の研究通りでした。が、発酵性大豆食品として検証すると死亡率低下と関連した。なるほど!というわけです。

 

日本以外で納豆や味噌は中々消費されませんよね。だからこの大規模な研究は日本でしかできません。裏を返すと、世界的に日本人の食生活はかなり特殊なので、日本人での食事と健康の関連性を人類に一般化するのは難しい部分があります(例えば白米と健康。欧米では白米含む精製穀物は健康に悪いと言われていますが、日本人において白米摂取量と健康の関連性ははっきりしていません:参照こちら)。そのため日本発の研究が欧米の権威の高い医学誌に採択されにくい(と私は思っている)のですが、この研究はそれを越える程非常にnoveltyが高いと評価されたのでしょう。

 

環境問題も背景にありそう

あと、赤肉による環境問題も背景にあると思います。

赤肉は製造過程でメタンガスなどを介して地球温暖化に寄与することが知られています。近年の環境問題への意識の高まりは、グレタさんの活躍もあり、特にヨーロッパで顕著です。公衆衛生領域界隈では(特に安い)赤肉摂取は避けられるべきという風潮になってきており、一部市民レベルでもそういう動きが出てきています。私は今後赤肉が規制されていくと考えており、その理由や動きはこの記事でまとめています。この流れに従い、必然的に肉によるタンパク質の代替として、豆が注目されています

 

でも大豆は死亡率を下げるという強いエビデンスはありませんでした。発酵性大豆食品なら死亡率下げるよ!!とそこに一石を投じたこの論文は、この情勢の中でインパクトが大きかったと考えられます。

 

ただ、だからといって納豆がヨーロッパで流行ることは無いでしょう。味覚が全然違います。また、そもそも因果関係を示唆しているに過ぎません。一つの疫学研究は、世の中を変えるほどのインパクトは、普通もっていません。こういうエビデンスが積み重なり、税を含む政策に反映されてはじめてpublic healthにインパクトを持ちます。

 

一方、こういう情報(健康に関する科学的根拠)を我々が個人として把握しておく事は、自分のヘルスリテラシーを高め、自分や周り友人・家族の健康を守るために、非常に重要です。科学的根拠が科学者の中にとどまっていては意味ありません。このブログでは、様々な健康情報の科学的根拠をわかりやすく紹介しています。是非参照下さい。

 

 

結論

納豆を食べると死亡率が10%低下するとは言えませんが、納豆・味噌(発酵性大豆食品)に死亡率を下げる健康効果があることが初めて示唆されました。

ではまた。

 

-論文解説・考察

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