病院は金がありません。
市中病院はなおのこと、大学病院は臨床研究も使命としてあるのに、金が無いために医療従事者がボランティアで研究をやっています。
そんな一つの解決策は、裕福な患者からの寄付かも知れません。
法律上はOKなのですが、それは倫理的に妥当なのか。
これを調べた研究を紹介します。
病院は患者から見返りありで寄付を募っていいのか
研究費と病院の収益は年々減ってきています。
アメリカの123病院を調べた所、それぞれが年間20億以上、病院関係者以外から寄付を受けていることがわかっています。
実際、
・寄付できる可能性のある患者さんを特定し通院してもらう(医者—患者関係を構築する)
・通院している患者から寄付を募る
ことは有用な手段なんですが、それが倫理的にOKか、あまり議論されてきませんでした。
倫理的にOKなのかは答えがありません。
一般的にどう思われるかが大事です。
患者からの寄付についてアンケートで調べたのが、今回紹介する研究です(JAMA. 2020;324(3):270-278.)。
どういう研究?
lposという「アメリカのrepresentative population」をサンプリングするツールで、色々な層の参加者を集めました。
・513人のgeneral population
・253人の年収25万ドル以上(寄付してくれる可能性が高い人達)
・260人の、最近癌の診断をされた人
・256人の心疾患を持つ人(今まで病院とかなりinteractionがあった人)
彼らにアンケートを行いました。
→回答率は62%くらいでした
例えばこんな質問です:
・重篤な病気で通院している女性が、今後の治療発展のため寄付を行いました。感謝の意として、良い病室の使用、早い予約、主治医の電話番号を教えるのはOKか。
・寄付した人が、その資金の使いみちをどれくらいコントロールできるべきか。
→異なる寄附金額で同じ質問が行われました
また、
・寄付してくれそうな人を集めて声をかけるのはOKか。
などなど。
*これらは全て合法のアプローチだそうです(アメリカでは)
結果は?
以下、「許容される」と回答した人の割合です。
✔100万ドル寄付した場合(general population)
よい病室を使う:50%
予約を早める:26%
主治医の電話番号を教える:20%
✔「100万ドル寄付で予約を早めること」を許容するか
高所得者では38%
がん患者24%
心疾患患者23%
✔医者が、寄付してくれそうな人を同定して病院スタッフに教え、アプローチをとることについて(general population)
本人に承諾を得た後の場合47%
本人に承諾を得ずに行う場合8.5%
✔医者が患者に寄付を呼びかけること(general population)
患者が話を持ち出した場合:79%
医師から話を持ち出す場合:14%
*医師から言われたらプレッシャーに感じる:90%
✔寄付金の使い道は完全〜大部分寄付者が決めるべき
general population:79%
高所得者:92%
解釈は?
病院への寄付に関して、合法のアプローチであっても、多くの人が「許容できない」と考えているものが多いことが分かりました。
62%の回答率でselection biasがかかっている可能性、representative populationが抽出できていない可能性などのlimitationはありますが、おそらく大筋はこの通りかと思われます。
病院はお金が足りません。特に中核病院はfund raisingすることで新しい医療機器を導入したり、臨床試験を行うことができ、最終的にcommunity healthに寄与することが期待されます。
一方、患者から寄付を募ることに関しては、かなりの人が許容できないと考えている。
これは大きな問題です。。
日本とは状況も規模も違うので一般化はできません。
もしかしたら日本の方が風当たりが強いかもしれません。医療に関してはより社会主義的なので。
でも日本の病院こそお金がない。切実に寄付が欲しい所でしょう。
(アメリカほど医療にお金がかかりませんが。一方お金持ちもアメリカと比較したらそんなにいませんが。)
ちなみに私は、高額の寄付(1000万以上とか)については見返りあってよいと思います。
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関係ありませんが、日本人はお金を寄付するマインドが少ないですね。
アメリカと比較すると、寄付金の額が違います(当然かもですが)。
一方、輸血は「献血」という「血を寄付する行為」で成り立ってるのは興味深い点ですね。
単純に、日本には寄付できるレベルのお金持ちが少ないだけなのかな。
結論
病院が患者から寄付を受ける・募るアプローチは、皆が受容できないと考えるものが多い。
ではまた。