肺炎になったら抗菌薬、というのが常識です。
でも抗菌薬が効くのは、「その抗菌薬が効く細菌」が原因の時だけ。
実は今や肺炎といっても、耐性菌やウイルス性肺炎がかなりの割合をしめます。
特に医療リソースの少ない発展途上国において、重篤でない肺炎には抗菌薬なしでいいんでないか、と言われています。
それを調査した最大規模の研究が発表されたので、これを解説します。
え、肺炎って抗菌薬なしでいいの?!
肺炎→抗菌薬。
こう思っている人がほとんどではないでしょうか。
でもそんなのは時代遅れかもしれませんよ・・・。
インフルエンザ桿菌や肺炎球菌に対するワクチンが広まり、実は細菌感染を原因とする肺炎がかなり減少しているのです。
現在、(下気道)肺炎の主な原因はウイルスだと言われています。
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低所得の国において、小児の肺炎は3日間のアモキシシリン投与が推奨されています。
これは当然、アモキシシリンに感受性のある細菌にしか効果がありません。
実際は、アモキシシリンが効かない細菌が増えてきている。
そして、抗菌薬使用は耐性菌出現・腸内環境の変化など良くないこともあります。
実は抗菌薬の意味はもはやないかもしれない。
特に医療リソースが少ない発展途上国が問題です。
今回紹介する論文は、パキスタンに住む2-59ヶ月の赤ちゃんを対象とし、頻呼吸を伴う肺炎に対しアモキシシリン vs. プラセボで改善率を比較したランダム化試験です(N Engl J Med 2020; 383:24-34)。
どういう研究?
こんな研究です:
HIVとマラリアが流行っていない場所に住む2-59ヶ月の赤ちゃん
→咳か呼吸困難を主訴とし、かかりつけにて肺炎と診断され、WHO分類による頻呼吸が伴っている患者
→アモキシシリン3日間 vs. プラセボにランダム化(二重盲検化)
→治療期間中3日間の治療失敗の頻度を比較しました。
*重症な子、48時間以内に抗菌薬使用された子、2週間以内に入院してた子、結核や喘息や他の病気がある子など除外されました。
primary outcomeの治療失敗とは:
・死亡、入院
・重症化により主治医により治療変更された場合
・重篤なサイン(WHO基準)
をいいます。
これはnon-inferiorityを検証する研究で、power分析により4000人くらいが必要と計算されました。
結果・・・実際は
結局4002人がenroll、それぞれの群で70人強がプロトコルに従いませんでした。
(per-protocol analysisはプラセボ群1927人と治療群1929人)
治療失敗は
・プラセボ群の4.9%
・治療群の2.6%
に認められ、この差はnon-inferiority marginを超えました(=アモキシシリンの方が良いという結果)。
治療失敗の原因となりそうな因子を含めた多変量解析では、アモキシシリン vs プラセボでOR 0.52 [95%I 0.37, 0.74]でした
→アモキシシリンは有意に治療失敗を抑えるという結果でした
*その他、治療失敗に関わる因子は:呼吸数、喘鳴、発熱、発熱の病歴、下痢、室内気が悪い、といったものでした。
色々サブグループ解析しても結果は一貫していました。
解釈は?
パキスタンに住む2-59ヶ月の赤ちゃんで頻呼吸を伴う肺炎の場合、アモキシシリンを投与したほうが3日間の治療失敗は少ない、という結果でした。
アモキシシリンのNumber Needed to Treatは44でした
→一人の治療失敗を避けるのに44人を治療する必要があるということ
→まあまあ高いですね
→肺炎の赤ちゃん全員に投与するのはやりすぎかも、と推察されます。
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赤ちゃんの肺炎、大多数は大丈夫かもしれないけど万が一細菌性かもしれない。なぜそこまで抗菌薬投与の制限に躍起になるの?!?!
と思う方へ。
発展途上国は治療のリソースがないのです。
そもそもほとんどの患者さんがレントゲンとられません。
そして治療の選択肢も、本研究の地域ではアモキシシリンほぼ一択のよう。
そして抗菌薬を制限することは、そのコストを抑えたいという意味だけでは有りません。
耐性菌を少なくするというのがかなり重要です。
耐性化した細菌は(当然日本においても)治療失敗のリスクが高まります。
(コストという意味でも、耐性菌が増えれば治療コストが当然高くなります)
この研究のいちばん重要なlimitationはgeneralizabilityがかなり限定的な所でしょう。
細菌の抗菌薬耐性化だったりワクチン接種状況、細菌性 vs ウイルス性の頻度の差は、場所によってかなり異なります。
当然日本やアメリカでは状況は全く異なるでしょう。
そして、この研究の対象地域は発展途上国の中でもHIVとマラリアが流行していない場所。
発展途上国でも、どこでもそうなのかはわかりません。
結論
まだ今の所、肺炎に抗菌薬使わなくてもよいだろうとはいえない。
ではまた。