今全世界でcity lockdown、隔離政策が行われていますが、実際どれくらい効果があるんでしょうか。
ウイルスが感染する強さはRt(effective reproduction number)で表されます。1人が何人に感染させるかを表します。
これは隔離政策でどのように変わったのでしょうか。
この記事では、武漢におけるcity lockdownの効果を検証した論文を、わかりやすく解説します。
ロックダウン・隔離政策でRtはどう変わるの?
武漢は最初にコロナウイルス感染症に直面した都市です。正体不明の感染症に直面、医療崩壊を経験し、その後かなり積極的な隔離政策が取られてきました。
今やヒト-ヒト感染をかなり抑え込められている段階です。
この経過を解析し、教訓を得ることは、他国にとって非常に重要です。
4/10にJAMAという医学雑誌に発表された論文を解説していきます(JAMA. 2020;e206130.)。
武漢での経緯
論文では武漢での経過を5 phaseに分けて解析しています。
Phase 1 (12/8~1/10): 何かunknownな原因の感染症が始まる。
Phase 2 (1/10~1/23): 1/10に「春運」は始まり、大規模な人の移動。それに伴い患者が急増。1/19には人の間で感染することが公表される。
Phase 3 (1/23~2/2): 医療機器がなくなっていく。医療崩壊。交通機関の制限が始まり、事実上のcity lockdownに。外出時はマスク着用義務化など
Phase 4 (2/2~2/17): 病床の建て増し、患者の集約化+隔離の徹底、医療器具の補給
Phase 5 (2/17~3/8): 全員に症状有無の調査を行う。
この経過で、患者数はこのように推移しました。
Phase 1: 1日100万人につき2人
Phase 2: 1日100万人につき46人
Phase 3: 1日100万人につき163人
Phase 4: 1日100万人につき78人
Phase 1: 1日100万人につき17人
研究は、武漢のDisease Report Systemを使い、患者情報などを収集しておこなわれました。PCRでRNAが検出された人=患者としてカウントしました。
患者の特徴
計32583例の患者が確認されました。
年齢の中央値は57歳、男性が48.4%。医療従事者は4.6%でした。
論文では、5つの期間で、どういう属性の人が感染しやすかったか、グラフ化しています。
A:男女差は無さそうでしたが、医療従事者の感染リスクは高い結果でした。特にphase 2-3(医療崩壊が起きていた頃)では全体の3倍以上のリスクとなっていました。落ち着くにつれ、医療従事者のリスクは収まってきました。
B:年齢に分けると、高齢者程はっきりとリスクが高くなっていました。
C:若年者に限ると、特に1歳未満の罹患割合が多いことがわかります。
D:重症度について分けると、最初のphaseを除き、ほとんど割合は変わりないことがわかります。重症は10-20%程度、重篤なのは5%程度でした。
グラフにはありませんが、女性の方が男性より重篤化するリスクは10%程度低い結果となりました。
医療従事者の方が重篤化のリスクが高いという結果にはなりませんでした。
武漢の政策でRtはどう変化したか?
Rtは1人が何人の感染者を作るか、という指標です。
R0はBasic reproduction numberと言われます。これはt=0の状況、即ち「全員感染するリスクがある場合」を意味しています。
実際は状況によって「1人が何人にうつすか」は変わってきますね。
これがEffective reproduction numberでRtです。tは時間を意味します。
論文ではRtの推移を表で表しています。
Phase 1-2はRt=3-4の間を推移
→Phase 3で急速に1.2程度まで低下
→Phase 4で1を下回り
→Phase 5で0.5以下に、さらに減少傾向
といった感じでした。
この解釈は?
武漢の政策は封じ込めに成功した、というのが直接的な解釈でしょう。
・Phase 2-3で医療従事者に感染リスクが高かったのは、新型感染症として防護していなかったこと+医療器具が不足したことが原因と考えられます。Phase 4では感染予防が徹底され、医療機器も補完、30000人の医療従事者が中国の他の街からサポートに来たそうです。
*本当か知りませんが、その30000人の医療従事者は一人も感染しなかったそうです。
・ワクチンなくとも、強力に押さえ込めば感染をコントロールできることが示唆されました。ただ、中国の政策はかなり強力だったようです。交通を遮断しただけでなく、集会を禁止し、自宅隔離を徹底しました。
→あと2/2から患者の集中的な隔離が行われたのは重要です。病院が一瞬でできて、コロナ用の病院・病棟が機能しました。これにより人—人感染がかなり減少したと見られます。
→social distancingと同様、医療のcapacityを上げることも本質的に重要です。
・報告ではR0は1.4から6.5くらいとバラツキがあります。武漢での最初の報告では2.2でしたが、最近の報告では3.58でした。
→これが2/6に1未満、3/1には0.3未満になったということは重要です。
*Limitationを認識しておきましょう。
・なんの政策が効いたかはわかりません
・年齢、性別以外の患者情報がありません
・検査がどういうパターンで行われてきたか、定かでありません。Phase 4-5ではよりたくさん検査を行えるようになったようです
・Phase 1-2には診断されていない症例が多く合ったことが考えられます
・しょうがないですが、無症候の症例はカウントされていません。
結論
中国並みの強力な封じ込め政策は、Rを1未満にするポテンシャルがある程強力かもしれない。
ではまた。