ペースメーカー、1台100-200万くらいします。
植込み型除細動器(ICD)だと300万。
高いですよね。
亡くなった方の中古のペースメーカーを使ったら良いのでは?
そんな報告です。
中古のペースメーカーをつかってみる!?
ペースメーカーとICDに金がかかりすぎることは世界中で大問題になっています。
ペースメーカーで100万。
ICDで300万。
日本なら問題ないですが、それは日本だから。
自然と、
亡くなった方の、コンディションがよいペースメーカーを再滅菌して使えないか?
というアイディアが以前からありました。
実は10年前から。
しかし当然感染のリスクが怖い(そもそもペースメーカーに感染はつきもの:一定確率で生じる)。
当然、新規ペースメーカー植え込みと比較した研究が必要になります。
そんなプログラムが2003年よりスタート、この結果が今週のNEJMに発表されました(N Engl J Med 2020;382:1823-31.)。
*以下、ICDとペースメーカーあわせて「ペースメーカー」と表記しています。くどくなるので。
どうやった?
Montreal Heart Institute.という病院(カナダ)で、2003年1月より中古ペースメーカーを用いた症例を集めていました(プログラムの一貫で)。
中古といっても、当然状態のよいものをしっかり消毒してから使っています。
中古デバイスは、メキシコ・ドミニカ共和国・グアテマラ・ホンジュラスの患者(裕福でない国の患者)に埋め込まれました。
*これが可能だったのは、これらの国で金銭的理由のためペースメーカーを植えられない方がたくさんいるからです。
中古PMを使った症例と年令、性別、リード数、植え込み日付でマッチしたコントロール(1:3のマッチング)を集め、データベースを構築。
コントロールとは、通常のペースメーカー植え込み(新しいデバイス)を行った症例(カナダ)です。
結局1051人の中古症例、3153人のコントロールでの比較となりました。
2年のフォローアップ期間中の、「デバイス感染またはデバイスを原因とする死亡」というアウトカムで2群を比較しました。
結果・・・有意差なしだが・・
結局2年間で、
中古ペースメーカー:21人が感染(2%)
新品ペースメーカー:38人が感染(1.2%)
でした。
COX proportional modelのハザード比は1.66, p=0.06と有意な結果にはなりませんでした。
*ただカプランマイヤー曲線をみると、半年まではほぼ同じ、半年後から中古群で感染が増えている印象でした。
つまりproportional hazardのassumptionが成り立たず、ハザード比はよい統計指標ではありません。
解釈は?
中古ペースメーカーを使って感染が増えるか?
という質問に、「No」と自信持っていえる結果とはなりませんでした。
おそらくn増やせば、有意差となるでしょう(COXがふさわしいモデルかは検討の余地がありますが)。
*そしてそもそもRCTでないので因果関係を言うのは難しいですね
しかしこの論文が主張するのはそこでなく、
「中古ペースメーカーでも2年で2%程度の(かなり低い)感染リスクだ」ということです。
これはp値絶対主義の臨床医にもわかってもらえると思います。
日本なんかは新規ペースメーカーをばんばん植え込んでも、はっきりいってそんな大した医療費の打撃でありません。
感染リスクがちょっと上がるかもしれないペースメーカー使うくらいなら、新しいもの使えばいいんです(少なくとも今のうちは)。
問題となっているのは、低所得の国です。
300万もするICDなんて植え込みできません。
だからこのプログラムの対象となったのです。
金がなくて植え込みができないより、感染リスクが少し高くても植え込みができたほうが良いでしょう。
*基礎疾患にもよりますが、おそらくペースメーカーが必要な患者の中でも、絶対的に必要な患者が選択されていると思います。
***
裕福な国とそうでない国の圧倒的な医療の差が浮き彫りになった報告でした。
でも「日本やカナダに生まれてよかった」でなく、世界の医療格差を是正する、このような活動は手放しに称賛されるべきです。
そして感染リスクも低かった。
広まると良いですね。
*倫理的な理由でRCTは組めていません(ランダムに中古になったら、誰でも嫌ですよね)。
なのでこのようなコホート研究が一番信頼できるエビデンスです。
結論
中古ペースメーカーは新品より感染リスクが高まるかはわからないが、差があったとしてもちょっとだけ。
ではまた。