植込み型除細動器(ICD)とは、心臓が止まった時に自動で電気ショックを与える機械。
最近まで、心臓内に留置したリードからショックを行う仕様が普通でした。ペースメーカーと同じ。
でもなるべくなら静脈の中に異物を残したくない。
完全皮下植込み型のICD、その非劣等性試験が発表されました。
植込み型除細動器に静脈内リードは必要ない。
– 心臓が止まるリスクの高い方にはICDを埋め込んだほうがよい –
医学が致死的な心臓病を克服しかけたエビデンスでした。
心臓が止まったら自動でショックを行う装置、ICD。
このエビデンスが出てからかなり非常に多くのICDが使われ、多くの患者の命を救ってきました。
しかし一方、ICD埋め込みの適応がゆるすぎ、埋め込んだのに意味がない方が数多く発生。
それとともに、ICDの合併症が徐々に明らかになってきました。
一番問題となっているのは感染症。
ICDとは、電気ショックのためのリードを、静脈をつたって心臓内に留置します。そのリードが細菌感染を起こすと、心臓に感染が波及し心内膜炎となってしまう。
これは致死率が高いし、治療も難しいのです。
それから、ICDの適応がだんだんと厳格化されてきました。
一方、そもそもリードを心臓内に留置する必要があるのか?という疑問から、技術革新が起きていました。
心臓内にリードを留置するという方法は、ペースメーカー(徐脈の治療法ですね)を応用したもの。
徐脈+心停止のリスクがある方にはICDはピッタリな治療なのですが(ICDはペースメーカーの機能も併せ持つため)、徐脈でなく心停止のリスクがある方には、ペースメーカー機能は不要。
そこで開発されたのが、「完全皮下植込み型ICD」
これはショックリードを皮下に留置するタイプの新しいICDです。
当然皮下リードの方が心臓内リードより電気ショックが伝わりにくいし、そもそも心電図波形が読み取りにくい(=心停止の判断が難しい)。
そこに技術革新が必要でした。
今まで皮下型ICDのエビデンスは観察研究がメインで、今ガイドラインではClass IIaの適応です。
そしてついに今週、「皮下型ICD vs. 通常ICD」という始めての大規模RCTの結果が発表されたのでした(N Engl J Med 2020; 383:526-536)。
どういう研究?
アメリカとヨーロッパの病院で行われた、non-inferiority trialです。
対象は:
・18歳以上の心停止ハイリスク患者(一次、二次予防含む)
・徐脈がない
・CRTの適応がない(その場合はCRTD植え込みが行われるため)
・ATP(抗頻拍ペーシング)が第一選択となる心室頻拍でない
皮下型ICDと通常ICDに1:1にランダム割付、
デバイス関連の合併症+不適切なショックというアウトカムを評価しました。
*デバイス関連の合併症とは具体的に:
・リード感染、心内膜炎
・ドレナージが必要な皮下血腫
・輸血
・入院延長
・デバイスに関連した血栓症
・気胸、血気胸
・心タンポナーデ(リードが心臓を突き破ってしまう)
・デバイストラブルにより再手術が必要な場合(リードの位置ずれなど)
結果
876人に対しランダム化が行われ、
・皮下ICD群は426人が対象、339人がフォロー完了(70人死亡)
・通常ICD群は423人、346人がフォロー完了(56人死亡)
となりました。
*lost follow-upやcross-overは少なかったです
年齢の中央値は63歳、女性は20%、虚血性心筋症が69%、EFの中央値は30%でした
EF低い!!CRTの適応はEF<35%で、この研究は「CRTの適応は除外」なのに・・・なぜ
フォロー期間の中央値は49ヶ月。
primary outcomeの発生率は15.1%と15.7%でハザード比0.99、p for non-inferiority=0.01で「非劣等でない=同等だ」とされました。
*詳細には:
・デバイス関連の合併症は、皮下型ICDの5.9%、通常ICDの9.8%:ハザード比0.69
→リード関連の合併症は皮下型1.4%、通常型6.6%
・不適切ショックは、皮下型ICDの9.7%、通常ICDの7.3%:ハザード比1.43
→最多の原因はover-sensingが59%(皮下型)、SVTが93%(通常型)
secondary outcomeとしては、
・死亡率のハザード比:1.23(皮下型がちょっと多い)
・突然死は両群18名
・適切なショックのハザード比:1.52
→皮下型が多いですが、=良いわけではないです
→なぜなら、通常ICD群ではATPが作動して止まった心室頻拍が多数あるから
解釈は?
無事皮下型ICDのnon-inferiorityが証明されたわけです。
ガイドラインの適応もIIa→Iと変わるかも知れません。
しかしそれ以上の情報があるTrialです。
primary outcome以外はpowerが足りないのでp値は参考になりませんが、以下の事がメカニズムと傾向から推察されます:
✔皮下型ICDはデバイス関連の合併症が少ない
・静脈内を操作しないから当然。
・長期的にも、リード感染症による心内膜炎が起こらないというのは、かなりの良い面
✔皮下型は不適切なショックが多い
・心臓内の電位を基にしていないから当然
→特にT波が読みにくい
・ICDの設定を調整したり今後の技術革新は期待されるが、通常ICD程の精度とはならない
✔皮下型はATPが使えない
・遅い心室頻拍等については、ショックよりATPがベターでしょう。通常ICDの強み。
✔でも突然死の予防効果は変わりない。
ちなみに、デバイスの値段は皮下型の方が高く、電池の持ちは皮下型の方が短い(7年 vs. 12-3年)。電池が切れたら再手術して本体を替える必要があります。
そして皮下型ICDはかなりでかい。脇に植え込みます。前胸部に植え込む通常型ICDと、どちらが気になるか。
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皮下型ICDはデバイス関連合併症が少ないが不適切ショックが多く、ATPが使えず、値段が高く、電池の持ちが短く、でかい。突然死予防効果はあまり変わりない。
あなただったらどちらにしますか?
自分だったら、現時点のデバイスなら通常型を選ぶかな・・・。
結論
「デバイス関連合併症+不適切ショック」というエンドポイントに対しては、皮下型ICDは通常型と比較し同等であった。
が、別々にアウトカムを見ると、皮下型ICDは合併症が少ないが不適切ショックが多い。
ではまた。