今後ロックダウンをどうすべきか、非常に重要なポイントなので、かなり活発的に研究されています。
この記事で紹介するのは、イタリア発の論文。
かなり詳細なモデルを使った解析結果です。しかし解釈に注意も必要。
ロックダウンの今後が気になる方、必読です。
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ロックダウンは効果的か:イタリア版、新モデル
紹介する論文は4/22 Nature Medicineに発表されたものです(Nat Med. 2020;10.1038/s41591-020-0883-7.)。
この論文のポイントは、
・医療崩壊しているイタリアでの解析という点
・新しい、より詳細なモデルを使った点
です。
しかし、ゴリゴリ感染症疫学の論文なので、一般の方は読むのが非常に大変だと思います。
ここでは数学は最小限にして、この論文をわかりやすく解説していきます。
どうやった?
今までの一般的なモデルはこんな感じでした:
暴露→感染→治癒
それぞれの確率を〇〇と推定して、感染者数など全体の動きをモデルするのです。
でも、これはちょっと単純すぎる気がしませんか?
例えば無症候性感染と症候性感染は違う気がするし、
診断されたかどうかも考慮する必要がありそうですね。
これを考慮して新しいモデルを作り、シミュレーションしたのがこの研究です。
こんな感じになっております:
→「暴露、感染、無症候性で診断されない、無症候性で診断される、症候性で診断されない、症候性で診断される、治療を受ける、治癒、死亡」というカテゴリーを作り、それぞれの確率を推定してモデルしたのです。かなり複雑で、現実により即していそうな感じです。
ちなみに、暴露→感染の確率は、誰から感染するか(症候の有無✕診断の有無の4通り)によりパラメーターを変えています。当然ですね。
このモデルを使った時の、イタリアでのsocial distancing(ロックダウン含む)の感染者数への影響を検討しているのです。
*注意点!
・このモデルの特徴は、「症候の有無✕診断の有無の4通り」という状態を設定することで、積極的に検査をしたほうが良いのか、ということまで言及することです。
・再感染しない、コロナが撲滅しない、ワクチンが開発されない、などが前提となっていますが、これはこの種の研究で共通しています
・イタリアのデータを基にしてパラメーターを推定しているので、症候性で診断されても治療を受ける確率が低く、治療を受けた人が死亡する確率が高い設定となっています。なので今の日本の状況などに当てはまるとは思えません。
まずイタリアの状況でのR0(一人の感染者が何人に感染させるか)がどう変遷したか。
2/20をday 1として4/5 (day 46)までの情報でモデルしています。
day 1: 最初は2.38でした
day 4: Social distancingを始め、1.66に低下
day 12: 検査を拡大し、感染者がよりdetectされたので1.8に上昇
day 22: ロックダウン宣言、1.6に
day 28: ロックダウンが完全に施行され0.99に
day 38: 軽症の感染も診断されるようになり、0.85に
それでは肝心の結果。
day50以降にどういう政策を行うかでモデルした結果です:
<ロックダウンの程度は?>
・弱いロックダウンの結果は、R=0.98程度とななり、累計感染者数はほぼ直線的に増え続けました(左)
・強いロックダウンでは、R=0.50となり、累計感染者数はday 100程度から横ばいとなりました(右)
→よって、強いロックダウン(social distancing)を行ったほうがよい、と考えられました。
<PCRはたくさんやったほうがよいか?>
・たくさん検査をやると、かなり早めに感染が落ち着くという結果になりました(左)
→これはstrict lockdownと同じくらいの効果でした。
・たくさん検査をやれば、weak lockdownでもそこまで悪くなりませんでした(右)
→よって、たくさん検査をやればよいと示唆されました
解釈は?
著者らは強いロックダウン、検査を増やすことを提言しています。
しかしこれを日本の状況に当てはめる事は、基本的にできないと考えてよいと思います。
超重要なポイントは、このモデルは「ロックダウンがずっと継続する場合」のシミュレーションです。
前回紹介したハーバードの研究(JAMA)はロックダウン期間と季節性変動を加味したモデルですが、この詳細な検討はここではなされていません。
ロックダウンがずっと続くなら、ロックダウンが強ければ強いほど感染者数が減るのは当たり前ですよね。
検査もたくさんやった方がよいに決まっています。診断されたら隔離されるので、感染者数は減ります。
しかし現実に即したシミュレーションではないかもしれません。
少なくとも日本では(ロックダウンを1年も行えないですよね)。
新しい詳細なモデルを使ったアプローチは素晴らしいですが、このモデルを使って色々なシミュレーションをやると良いのかもしれません。
*参考までに、その他のlimitationです
・そもそも、イタリアのデータでモデルしています。日本とは状況が全く異なるのは当たり前です。
→具体的には、治療の効果が少ない、軽症が入院しない、等というバイアスがかかっています
・筆者らがsupplemental Figureで検討している通り、推定しているパラメーターが変わることで大きくモデルが変わります。
・あと状況によってパラメーターは変わります。これはモデルに反映するのが難しいです
結論
ロックダウンがずっと続くなら、強いロックダウン+検査を増やした方が良い。
でもこのモデルは現実的とは言い難い。
ではまた。