あれだけコロナが流行ったスペインで、抗体陽性者が5%しかいない。
ニュースで報道されて割と有名な話かもしれません。
これはスペイン全土を対象とした質の高い疫学研究の結果です。
この研究からわかることはたくさんあります。「5%」はその一部にすぎません。
この論文がついに正式に発表されたので、中身を解説していきます。
Contents
スペインのコロナ感染者が人口の5%しかない件の真相
日本でも住民対象の抗体検査が行われましたね。陽性率は0.1%だったとのこと。。
先駆けてやったのはスペインでした。
preprintの情報から、陽性率5%だったということだけが広まりました。1ヶ月くらい前でしょうか。
ようやく論文がLancetに発表されました(Lancet 2020 10.1016/ S0140-6736(20)31483-5)。
5%という数字は間違っていないのですが、この研究からはもっと色々な事がわかります。
例えば、
・年齢や性別、場所によって抗体陽性率は異なるか
・迅速検査と免疫アッセイ検査の違いは?
・無症候性感染はどのくらいいるのか
・感染者はどのくらい抗体陽性となるのか
住民を対象とした大規模検査であり、現時点で最も質が高い情報です。
中身をみてみましょう。
どういう調査?
スペイン全土から35883世帯がランダムに抽出され、102562人が検査対象となりました。
→住んでない人、連絡取れない人、拒否した人、検査がうまく行かなかった人など除外
→最終的に51958人が研究対象となりました。
*割と除外が多いです。その分選択バイアスが生じています
抗体検査は、指の血液を用いる迅速検査と、静脈血を使う免疫アッセイの検査が両方行われました。
結果は盛りだくさん
スペイン度全国土でのIgG抗体陽性率は、
・迅速検査では5%
・免疫アッセイ検査では4.6%
でした。
両方陽性は3.7%、どちらか陽性が6.2%でした。
*以下、迅速検査の結果を紹介します。
<場所>

Lancet 2020 10.1016/ S0140-6736(20)31483-5
この図は迅速検査の陽性率を示していますが、マドリードを含む首都部では陽性率は10%を超えていました(濃い青の部分)。
一方、バルセロナなど海岸沿いでは5%程度でした。
当然ばらつきがありますが、ばらつきはかなり大きい事がわかりました。
<年齢・性別・職業・収入>
✔1歳未満は1.1%、5-9歳は3.1%で年齢とともに陽性率は上昇、45歳以上からは大体6%でした。
→子供は陽性率が少なかった。
✔陽性率に男女差はありませんでした。
✔医療従事者は10.2%と陽性率が多く、ついで介護職員が7.7%と多い結果となりました。
✔仕事が現役の人は5.8%、退職後は6%、非雇用者は3.3%でした。
✔収入が低いほど陽性率が多い、ということはありませんでした。トップ5%の高収入者はやや陽性率が高く、6.2%でした。
<濃厚接触>
✔家族に感染者がいた場合は抗体陽性率31.4%(症状ありの場合は15.1%)
✔仕事場に感染者がいた場合は10.6%(症状ありとの接触は10.7%)
✔同居してない家族や友達に感染者がいた場合13.2%(症状ありとの接触は12.7%)
*感染者:PCR陽性患者、症状あり:PCR結果に関わらずコロナみたいな症状あり、という違いです。
<COVID-19症状の有無・PCR結果>
無症候の人の抗体陽性率は2.5%
14日以内の症状あり:13.9%
14人より前に症状あり:18.0%
PCR陰性(検査日指定なし)の人の抗体陽性率:7.9%
PCRが14日以内に陽性:45.6%
PCRが14日より前に陽性:88.6%
<迅速検査の感度・特異度>
免疫アッセイ検査を基準としたときに、迅速検査は
感度:79.6%
特異度:98.3%
でした。
症状ない方の感度は61%、症状ある方だと感度85%を超えました(特異度はいずれも98%以上)。
解釈は?
まとめるとこんな感じです:
・スペイン全土の抗体陽性率は5%程度
・マドリードなど流行した都市では10-15%程度
・子供の陽性率は低く、男女差はなし
・医療従事者、介護職員は陽性率高い
・家族に感染者がいた人は30%、仕事場では10%の陽性率
・無症候の人の抗体陽性率は2.5%
・PCRが14日より前に陽性:88.6%
・迅速検査の感度は80%程度、特異度は100%に近い
かなりの情報がある報告でした。
解釈の注意点は以下の通り:
✔住民票を基にランダムサンプリングしているが、若者は見つからないことが多かったので、「住民票の箇所に住んでいる若者」という選択バイアスがかかっている
✔世帯が対象なので、老人ホームや療養型病院に住む老人は対象となっていない
✔当然スペイン以外の国に一般化できる情報でない
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この情報のなかで、「5%」だけが独り歩きしていました。
5%はとても大事で、herd immunityを目指せる状況にないことをはっきり示しているので、social distanceを今後もやっていくべきというメッセージです。
一方、流行した都市部では10-15%の抗体率があることも重要。けっこう感染してます。
また、濃厚接触により抗体陽性率は飛躍的に増えていました。家族に感染者がいれば30%、仕事場にいれば10%。
無症候者の抗体陽性率は2.5%と結構高かった。
→当然、とりあえずはスペインに限った話です。
日本に一般化できそうなのは、迅速検査の感度の低さでしょう。
以前から言われていますが、症状無い方の感度は61%、低すぎですね。
*ちなみに感度が低い=陰性だからといって抗体が無いとは言えない、ということです。
特異度は高いので、抗体があれば検査陽性にはなります。
無症候者に抗体検査をする意味は現時点ではあまり考えられません。
今後「免疫パスポート」のように使われる可能性はありますが。
少なくとも日本において、現時点で抗体があるなんてことはほとんどの人でありえませんので、検査する意味はあまりなさそうです。
*当然ですが、PCR検査と抗体検査の意味は全然違います。
結論
スペインほど流行れば、都市部ではそれなりに抗体陽性となる。
無症候でも2%程度は抗体陽性となっていた。スペインだからだけど。
迅速検査の感度は低い。
ではまた。