最近衝撃的だった論文の解説を行います。
GLP-1作動薬という種類の糖尿病薬による、体重減少効果を検討したものです。
あまりに効果がすごかった。
色々批判的に検討してみましたが····
Contents
肥満をどう解決するかは世界的課題
肥満が健康に悪いことは常識ですが、その「ヤバさ」、しっかりと認識していますか?
大人でBMI 30以上が「肥満=obesity」と定義される事が多いですが、もはやこのカテゴリーは「病気」として病院で治療すべき、という認識が広まっています。
ではどう治療するのか?
今までは「食事·生活指導」がメインでした。
でもその効果、たかが知れています。
→研究によりますが、だいたい体重の1-2%程度の減少くらいしか見込まれません。
*臨床では5%の体重減少が「有効な体重減少」と定義される事が多いです。
****
肥満を薬で治す。
これは以前から検討されてきており、実は4つほどアメリアでは薬事承認されています。
・1つはOrlistatといい、中性脂肪の腸からの九州を阻害するもの。
・Phentermine/topiramate, Naltrexone/bupropionという2つの薬は、中枢神経系に働いて食欲を抑えるもの。
・もう一つはGLP-1作動薬でLiraglutideという薬。これはもともと糖尿病薬ですが、食欲を押さえたり色々なメカニズムで体重を落とします。難点は、毎日皮下注射、という点。
それぞれ複数のRCTが行われてきており、上の薬はだいたい4-9%くらいの体重減少効果が示されてきました。
***
さて、今回発表されたのは、GLP-1作動薬でも少し異なるSemaglutideという薬。
非糖尿病患者において、Semaglutideの体重減少効果を検証しました(N Engl J Med. 2021;10.1056/NEJMoa2032183.)
どんな研究?
非糖尿病、肥満患者1961人を対象とした、placebo controlled double blinded RCTです。
・2:1にsemaglutide 2.4mg+行動療法とplacebo+行動療法にランダム化
・68週間での体重減少効果(primary endpoint)をみました。
なお1週間に1回の皮下投与です。
*なぜ2:1なのか?
これはおそらく治療によるbenefitを享受する人数を増やしたいからかと思われます。
統計的には、1:1がもっともpowerが増えます。
****
weight lossを目的としたRCTに特徴的なのは、割り振られた通りに行動しない人の割合が多い点です。
これはnon-complianceといい、intention-to-treat effectとper-protocol effectが乖離する原因となります。
IV analysisを行なって、per-protocol effectを求める方法は一般的に用いられます
今回の研究では、
・semaglutide群の17%が治療中断
・placebo群の22%が治療中断
となりました。
なぜ治療群のほうが中断率が少ない????
と思うかもしれませんが、これは「体重減少効果がある」ことを参加者が自覚しているためだと考えられます。
重篤な副作用は
・semaglutide群の7%
・placebo群の3%
に見られ、当然治療群の方に多いので、治療中断の理由は他にあることがわかります(つまり上記ということ)。
ではこれがどのようなバイアスにつながるか?
これは後半で解説していきます。
結果は?
まずpopulationですが、
平均46歳、75%が女性、75%が白人、40%が境界型糖尿病、平均体重が105kg
の非糖尿病の方です。
これをまず認識するのは大事。
そして結果ですが、これが驚き。
68週間後、
placebo群が2.4%の体重減少に対し(これは行動療法の影響です)、
semaglutide群では14.9%の体重減少が認められました!!
こんなに強力な効果を示したものは、過去にありません。
これがどういう意味をもつか?
体重減少すれば、他の色んなパラメータが改善します。
・収縮機血圧:6.2mmHg減(いろんな降圧薬より強力です)
・HbA1c: 0.45%減(対象が非糖尿病なのに、です)
・CRPが半分以下に!!!(CRPは心血管リスクでした)
なお、脂質も全般的に改善しましたが、その程度はそこそこでした。
*脂質は遺伝の影響が強いのでしたね
解釈は?
GLP-1作動薬であるsemaglutide 2.4mgを週1回投与することにより、68週間で14%近くの体重減少が得られた、という結果でした。
いくつか批判的に検証してみましょう。
✔︎non-complianceの影響
上記の理由につき、参加者が自分がtreatment armだとわかってしまっている=double blindedでなくなっている、ということがわかります。
なぜそもそもdouble blindという面倒くさいことをやるかというと、「自分が治療を受けている」と気づくことによる精神的な効果の影響をなくすためです。
この気づきにより、実際行動変容が起きる可能性もあります。
つまり今回の研究は、semaglutide群の参加者は「自分が治療を受けている」という気づきにより、より体重減少効果が増幅されている可能性があります。
→本来の薬単独の効果よりover estimateになっている可能性がある、ということですね。
ただしこれは反論があります。
それも含めて薬の効果なんでないか、と。
特に医師はこういう意見を持つ方が多いのでは、と思います。
当然一理あります。
✔︎generalizabilityについて
対象は40代白人女性で体重105kgの方、というものでした。
当然薬の効きは個人に依存するので、30代日本人男性体重90kgの人にどれだけ効果があるかはわかりません。
しかしそれはどんな研究でも同じ。
この研究で目を引くのは女性が多いということで、もしかしたらこれがこの脅威的な体重減少効果に関連するのかもしれません。
→これはeffect modificationを見てみたいところです(今後論文がでるかもしれません)。
*effect modificationについてはこちら
***
ということで、そんなにlimitationが無いんです。
RCTとしてかなり質が高い。
だからこの結果に驚きです。
なおこの研究はSTEP1という名前で、STEP2~5までが既に走っています。
最近LancetにSTEP2の研究結果が出たようです(STEP2は糖尿病患者が対象です)。
さらに、内服のsemaglutideも開発されているとのこと。
これは予防医療のあり方を変えるきっかけとなる、非常に重要な報告かもしれません。
結論
semaglutideは強い体重減少効果がありそう。
肥満の治療の概念が変わる予感。
ではまた。