世の中には色んな職業があります。
今週のNatureで紹介されたのが、Super spotter、Bikさん。
彼女は論文の画像捏造を目で見抜くプロです。
論文捏造を見抜くスーパースポッター
スポッターというのは、間違いを見つける人。
論文の画像で怪しいものを見抜きます。
自分の目で。
それがsuper spotterのBikさんです。
今週のNatureに取り上げられました(Nature 2020)。
論文不正はよくある話ではありませんが、時々あります。
でも時々あることが、科学が信頼できない理由になってしまいます。
Bikさんは論文不正のうち、画像の捏造を見抜く超越した能力があり、世界的に有名です。
彼女が行った研究では、20000論文のうち4%に問題となりそうな箇所(画像盗用・重複)があったとされています(mBio 7, e00809-16; 2016)。
実は論文不正を摘発する人は世の中にそこそこいます。
多くはJournalにメール、それも匿名の事が多いとのこと。
しかしBikさんは違います。
彼女はほぼ毎日、Twitter(@MicrobiomDigest)や彼女のデータベースで画像盗用・重複を公開しているのです。
彼女の摘発により、172論文の撤回、300論文以上の修正が行われたそうですが、それでも多くの場合摘発が無視されているよう。
今彼女はフルタイムでこの作業に徹しており、かつエンジニアと協力して画像重複を転出するソフトウェアを開発中とのことです。
彼女はマジで凄い
Bikさんはもともとスタンフォード大学で研究員をやっていたのですが、論文盗用に関する論文を読み、興味本位で自分の論文の文章をgoogle検索してみました。
そしたら、勝手に盗用(plagiarismと言います)されていることを知って、怒りがこみ上げてきました。そして同時に、この事象に興味を持つことになりました。
すぐに、ある博士論文で画像の重複をみつけました。これをJournalに報告、その論文が撤回されました。
それから論文盗用を見つけるのが趣味になったとこと。そしてデータベースを構築していきました。
これが色々な研究者の目に止まり、彼女は凄い、と評判になりました。
mbioという雑誌の編集長が主導し、上に紹介した(彼女に関する)研究も行われました。
✔彼女のデータベースで頻回に(60論文)登場する共著者を特定したこともあります。
中国のNankai大学の学長だったのですが、中国の教育省を巻き込んだ事件となりました。
→結局そのうち13論文の修正が行われたのみで終わったそうです。
✔400以上の論文に似た画像を発見したこともあります。
これも多くが中国の病院発のものだったのですが、なんと「論文作成会社」が暗躍している可能性が示唆されました。
現在調査中です。
Bikさんへの批判
BikさんはよくTwitterで攻撃されるそうです。まだ訴えられてはいませんが、彼女はそれも懸念しています。
正しいことをやっていても、有名になると批判者が現れるのは何でも同じですね。
誤解を避けるため、著者でなく論文を批判することに気をつけているそうです。
それだけでなく、アカデミアからも批判されることがあります。
言い分は、「著者らが意図的に論文捏造した場合、学会から訴求される前に自分達が疑われていることを(Bikさんのツイートから)知ることで、証拠を消し去ることができる」というもの。
だから秘密裏に行動してほしいそうです。
でもBikさんに言わせてみれば、実際にjournalにこっそり伝えることも行ってきたが、ほとんどの場合解決しなかったり、解決までに時間がかかりすぎたりする、と。また、いずれにせよ著者らは証拠を隠滅する時間はある。
実際は論文発表される前、reviewの段階で画像盗用が検知されるべきです。
Bikさんもこの考えで、実際に少しずつ現状は改善しているそうです。
AIでできるか?
Bikさんは凄いですが、Bikさんはひとりしかいません。
AIでできないか、今開発がホットに行われています。
Resisという会社によると、現在は「画像のコピー、裏返し、回転」に関しては検出力が高いとのこと。ただ画像捏造も手が込むようになってきており、まだ対応は不完全。
これはAI(deep learning)の領域で、それにはtraining datasetが必要。その作成にBikさんは協力しています。
実際、Bikさんは今仕事が多すぎるそうです。
むしろ使えるソフトウェアが少なすぎて残念だ、と思っているそう。
でも2-3年後にはかなり良いものが生まれるだろう、とBikさんは予測しています。
感想
画像捏造は由々しき問題ですよね。残念ながら日本もかなり多いです。
疫学研究ではそもそも画像をあまり使わないので、文章の盗用のほうが問題です。画像は主に基礎研究が問題。
人生を研究一本でやっていて、ちょっと変えればすごい結果になるような状況だったら、画像に手を加えてしまいたくなる気持ちはわからないでもないです。アスリートがドーピングするようなものでしょう。その検出力が今までは低かった。
でもドーピングはダメだし、画像盗用もダメです。当然。
今後AIが発展したら、今までより簡単に見抜かれるようになります。
何の分野でもそうですが、技術革新とともに、ズルすることが難しくなってきています。
完全に実力、成果で戦うしかありません(それが本来の姿です)。
頑張りましょう。
ではまた。