遺伝子変異に基づいて抗血小板薬を処方した結果【ランダム化試験】

血をさらさらにする薬、抗血小板薬。

よく処方される抗血小板薬のクロピドグレルですが、遺伝的にこの薬が効かない人が結構いることがわかっています。

今回紹介する研究は、遺伝子変異に応じて抗血小板薬を変えるプラクティス vs. 普通にクロピドグレルを処方するプラクティスの、予後への影響をみたものです。

Precision medicineなるか!?

 

 

遺伝子変異に基づいて抗血小板薬を処方した結果

遺伝子変異に基づいて抗血小板薬を処方した結果

クロピドグレルは、最も多く処方されている抗血小板薬の一つです。

これはCYP2C19という酵素により体内で活性化するのですが、CYP2C19の機能が低い・ない人がいます。

これがある人はクロピドグレルが効きにくい or 効かないわけです。

 

さて、冠動脈カテーテル治療(PCI)後に抗血小板薬が処方されますが、それは植え込んだステントが詰まってしまう「ステント内血栓症」を予防する目的が大きいです。

でも普通遺伝子変異なんか調べないし、調べないでクロピドグレルを処方してもステント内血栓症が起こることはかなり稀です。

 

ということで、今回、遺伝子変異を調べた上での処方 vs 普通にクロピドグレルを処方する、というプラクティスを比較したランダム化試験が発表されました(JAMA. 2020;324(8):761-771.)。

 

 

どういう研究?

・PCIを行い

・12ヶ月間のDAPT(抗血小板薬を2剤飲むこと)が計画されている

方が対象です。

*DAPTは今現在12ヶ月行くことは少なくなってきています。この研究は2013年-2018年に行わわれました

 

参加者は以下のように1:1にランダム化されました:

・アスピリン81mg+クロピドグレル(コントロール群)

・アスピリン81mg+

遺伝子検査でCYP2C19変異がない→クロピドグレル

変異がある→チカグレロール(もし飲めなければプラスグレル)

 

この解析では、両群ともCYP2C19変異がある人のみがenrollされました。

 

アウトカムは

心血管病による死亡、心筋梗塞、脳卒中、ステント内血栓症、重度の狭心症再発

のcomposite outcomeです。

 

*power分析の流れがかなり丁寧に説明されているので、本文のmethod-statistical analysisを読むと非常に勉強になります。

ここでは省略します。

 

 

結果

5302人をスクリーニングして、CRP2C19変異がありstudyに参加できたのは1849人でした。

lost follow-upなどは少なめ。

*genotyping群では、CYP2C19変異があるにもかかわらず15%がクロピドグレルを服用していました。

 

primary endpointは

genotyping群:35/903(4%)

コントロール群:54/946(5.9%)

ハザード比0.66 (95%CI: 0.43, 1.02)

ということで有意差なしでした。

 

これはintention-to-treat analysisですが、per-protocol analysisを行っても結果は同様でした。

*per-protocol analysisはIV analysisのことです。詳細はこちら

 

もし1患者に複数のエンドポイントがあることを許容すると

ハザード比は0.60 [95% CI, 0.41-0.89]、P = .01と統計的に有意差がありました。

 

しかしKaplan-meier曲線上明らかにproportional hazardが成り立っておらず、period-specific HRも提示してあります。

0-3ヶ月はHR 0.21 (95%CI 0.08, 0.54)

・3-6ヶ月はHR 0.78 (95%CI 0.38, 1.61)

・6-12ヶ月はHR 1.44 (95%CI 0.69, 3.03)

でした。

 

 

解釈は?

統計的には有意な効果がなかったという結論になってしまいます。

でも本当にそうでしょうか?

 

limitationをみていきましょう。

1:genotyping群で15%がクロピドグレルを服用している

この理由は保険など複雑らしいですが、その分両群の差はなくなります。

 

2:1患者に複数のoutcomeを許容すれば有意な差となる

これは単純にpower=サンプル数が足りてないことを暗示しています。

つまりメインの解析でp>0.05なのは、偶然ではなくtype2 errorだということです。

 

3:proportional hazardが成り立っていない

つまりHRは12ヶ月を平均した影響という意味になっています。

restricted mean survival timeの解析が知りたいところです。

 

また、periodごとのハザード比を出していますが、最初の3ヶ月は明らかにgenotyping群でイベントが少ないですよね。

この期間ではかなり効果があるということです。でも長期的にみると、built-in selection biasが働いて効果が無くなってしまいます

*built-in selection biasについてはこちら

 

*******

ということで、少なくとも最初の3ヶ月(PCI直後)のアウトカム改善には効果がありそうですね。

メインの解析で「統計的に有意でない」という結論は、この場合あまり何も示唆しません。

 

ただし!

クロピドグレルをメインに使うというのは、現在のプラクティスとは残念ながら言えません

2年前の段階で日本ではほとんどアスピリン+プラスグレルでしたし、アメリカではアスピリン+チカグレロールがメジャー(だそう)です。

 

クロピドグレルを使う状況は、患者がお金を払えないときなど。でもそんな場合は、DAPTを短期間にしてアスピリン単剤にしそう。

そもそもDAPTの期間は最近顕著に減ってきており、今では1ヶ月なんかも検討されているほど。12ヶ月は長すぎです。

 

つまり、genotypingなんかせずに、アスピリン+プラスグレル(またはチカグレロール)というDAPTを1-3ヶ月の短期間行く、というのでOKな気がしてしまうわけです。

*だからこの研究がNEJMでなくJAMAに掲載されたのだと思われます。NEJMはプラクティスを変えることが審査基準なので。

 

 

結論

genotypingによる抗血小板薬選択は効果がありそうだが、現在ではあまり実用的ではないかも。

ではまた。

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