今回はAmerican Journal of Clinical Nutritionという雑誌に発表された、私の論文を解説します。
血液検査で、摂っている食事の質がわかるか?!というのが、界隈で話題になっています。
そのバイオマーカーの名はTMAO。
これを比較的しっかり調べた論文です。
TMAOというバイオマーカーで「食事の質」がわかるか
自分の食事がいいかどうか、わかりますか?
はっきり判断するのは難しいですよね。
これが「値」で表されたら、とても良いと思いませんか?
そこで注目されているのが、TMAOというバイオマーカーです。
TMAOはなぜそのような性質が期待されるかというと、
赤肉とか卵に、TMAOの前駆体が含まれているからです(カルニチンやコリン)。
これら前駆体が腸内細菌でTMAという物質に代謝され、それが血中に入り、肝臓でTMAOとなります。
なので単純に言えば、
「TMAOが高い=赤肉を食っている=食事があまり良くない」
という事が期待されるわけです。
そして実際、小規模のRCTでは、赤肉を食わせる vs 白肉という比較で、赤肉を食わせた方がTMAOが上がる、という報告があります。
さらにさらに、TMAOが高いと心血管疾患のリスクが高いことが、複数の研究で示唆されているのです!
つまり、TMAO高い=赤肉食べすぎ=心血管疾患のリスク、という構図が考えられ、
本当にそうなら健康診断とかでTMAOを測ることで、介入に繋がります。
素晴らしいバイオマーカーだと思いませんか!?!?
しかし!
食事は赤肉や卵だけではありませんよね。
食事のinteractionがありそうです。
また、実は魚がTMAOを含んでいるのです!!(前駆体でなく)
魚=健康に良い、なので、TMAOが高いことが魚をたくさん食べているからだと、都合が宜しくありません。
そこで、60歳程度のアメリカ人男性のコホートを用いて、食事とTMAOとの関連を調査しました(Am J Clin Nutr. 2020;nqaa225. doi:10.1093/ajcn/nqaa225)。
方法は?
MLVSというコホートの620名のアメリカ人男性を対象に、
・今まで1年間の食事に対するアンケート×2を平均したもの
もしくは
・14日間の食事を詳細に記録したもの×2を平均したもの
と
・2回測定したTMAOの値の平均
を比較しました
*それぞれ2回の平均としているのは、measurement errorの影響を少なくするためです。
具体的には、調査結果から得られた食事を以下のようにカテゴリーしました:
赤肉、白肉、魚、野菜、果物、卵、動物性油、ナッツ、全粒穀物、精製穀物、乳製品、お茶/コーヒー、肝臓、アルコール、豆、フルーツジュース、砂糖入り飲料、ポテト、スイーツ
*これがめっちゃ大変でした。アボガドって野菜!?みたいな
そして
Log-TMAO ~ food groups + covariate
というモデルで、標準化したβ係数とp値をみた、ということです。
*他にもaHEI, aMED, PDIといった食事パターンとの関連も調べました。
結果は?
めちゃくちゃはしょると、「魚の摂取」が一番強く、一貫してTMAOと関連しました。
肉は全然関連しませんでした。
解釈は?
TMAOは魚の摂取量と一番良く相関する、ということでした。
少なくとも、このコホートで対象としたような「健康な高齢アメリカ人男性」では。
ちなみに、AHEIやaMEDやhealthy PDIといった、「高いほうがよい」食事スコアは、TMAOの値とは逆相関しました。
だから残念ながら、TMAOは食事の質を反映しないことが示唆されました。
残念。
今世界では、腸内細菌をAIで解析してTMAOとの関連をみるようなプロジェクトがたくさん走っていますが、そもそもTMAOって使えないんじゃない?という疑問を投げかける結果となりました。
対象としたpopulationにgeneralizabilityが少ないというlimitationがありつつ、割と核心的なことなので(TMAOに関しては)、AJCNというトップジャーナルに採択されたかと思っています。
結論
TMAOは「悪い食事」を反映しないかもしれない。
ではまた。