因果関係とは「〇〇が☓☓の原因であること」を意味しますが、「原因」とは何でしょうか。よく考えると混乱してきます。
アルコールを飲んで健康な人がいるのに、アルコールを飲むことと癌の因果関係があるといえるのでしょうか?
実はこれは「因果関係の意味」に関する本質的な疑問です。
この記事では、因果関係の2つの意味について解説します。
因果効果の意味とは?
因果関係、「〇〇が☓☓の原因であること」は、実は2通りの意味があります。これを明確に意識しておくことが大事です。
・一般的に〇〇をやる事で☓☓となる可能性が上がる(下がる)
→例えば、「アルコールを飲むとがんのリスクが上がる」「緑茶を飲むと心血管疾患のリスクが下がる」みたいな記述です。この因果関係の結果から、「だからアルコールを避けて緑茶を飲んだほうが健康に良い」と言います。
→注意点は、これらの因果関係は一般的な話で、あなたに当てはまるかはわからないという事です。あなたがアルコールを飲みまくっても癌にならないかもしれないし、緑茶を飲んでも心血管疾患になるかもしれません。あくまで母集団(大抵の場合‘人類’)の平均の話です。
→疫学用語でaverage causal effect(平均因果効果)と言います。
・あなたが〇〇をやる事で☓☓となる可能性が上がる(下がる)
→「(高校生に対して)君は医学部に行ったほうがいいよ」のような記述です。何が「いいよ」なのかは置いておいて、この因果関係はあなたにのみ当てはまります。つまり、医学部に行かないほうが良い人もいる、という事を暗に意味しています。
→注意点は、それが本当なのか、高精度で検証する方法は今の所ないという事です。この記事で解説します。
→疫学用語でindividual treatment effect(個人での因果効果)と言います。
この2つを分けて意識することが、まずとても重要です。
相関関係とは全く違いますね。気になる方はこの記事で確認下さい。
Average causal effect(平均因果効果)について
「人類(あるいは日本人)で平均したときの、〇〇が☓☓に与える影響」です。
噛み砕くと、「一般的に〇〇は✗✗の原因だ」ということです。
難しく考えることはありません。
どういう考え方(研究手法)で因果効果を示すのでしょうか?
「特徴が全く似ている2つのグループを作り、アルコールを飲むか飲まないかだけが異なるとして、10年間で癌発生率がどれほど違うか」という研究を行います。
ランダムに沢山の参加者を2群にわければ、特徴が全く似ている2つのグループが出来ますね。だからランダム化研究の結果は信頼性が高い。
一方、食事の大半の研究であるコホート研究(観察研究)は、統計手法を用いて2群の特徴が似るように調整しますが、限度があります。
よって、コホート研究よりランダム化試験が信頼性が高いのです。
詳細はこの記事で解説しています。
この手法には解釈に限界があります。
詳細はこちらで解説しています。
Individual treatment effect(個人での因果効果)について
「あなたが〇〇をしたときの☓☓に与える影響」です。
その影響度合いは、人によって異なります。
本当の意味でのpersonalized medicineやprecision medicineです。
この推定は容易ではありません。というか2020年の段階でこの推定は出来ていません。
理論的にはaverage causal effectと同一です。「もしあなたが〇〇したら(しなかったら)」という仮想現実(counterfactual)を推定する理論に基づきます。
しかし、平均での効果を推定することと、個人での効果を推定することには、大きな隔たりがあります。
そもそも、平均での推定を非常に精度高くするためには、様々なlimitationを超える必要があり、ハーバードのグループを含む最先端な疫学理論を用いなくてはならず、大半の科学者はこれができません。
それを個人での推定に応用することなど、先の先の先の話なのです。
MITのDavid Sontagのグループなど、このindividual treatment effect推定に力を入れている天才達が世の中にはたくさんいます。
将来、こちらが主流になるのかもしれません。
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現在の所、科学的根拠(エビデンス)というのは、ほとんど全て(というか全て)average causal effectを言います。
だから人類全体として考えたときに、「アルコールを飲むことで癌となるリスクが◯%上がる」という事は分かっても、「あなたがアルコールを飲んでどうなるか(=individual treatment effect)」は全くわかりません。
結論
因果関係には、平均因果と個人での因果という2つの意味合いがあります。
世の中で科学的根拠と言われているのは平均因果効果です。
個人での因果効果を言うには、研究の大幅な進歩が必要です。
ではまた。