臨床研究と疫学研究の「エビデンスの強さ」は異なる

臨床研究も疫学研究も、目的と方法論は全く一緒です。

違いは、治療という介入か、予防という介入か。

実はこれが変わるだけで、エビデンス=科学的根拠の「強さ」が異なってきます。

健康情報を判断する上で非常に重要なので、ここで解説します。

 

 

臨床研究と疫学研究の「エビデンスの強さ」は異なる

臨床研究と疫学研究の「エビデンスの強さ」は異なる

先日このようなツイートをしました。

 

これを掘り下げていこうと思います。

 

臨床研究と疫学研究がどう違うのか、というのは些細な問題なので、ここでは:

臨床研究:医者が処方する薬やデバイスという「治療」の効果に興味
疫学研究:行動やサプリなどによる「予防」の効果に興味

をもつもの、と単純化してみます。

*当然臨床研究は二次予防に興味があるわけですが、「医者が処方する治療」という点が大事です。

 

どちらの研究とも手法は同じなので、エビデンスヒエラルキーに基づいてエビデンスレベルが決まりそうなものです。
これには諸説ありますが、それはこちらの記事にて

でもそうではありません。

なぜでしょう?

 

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最初に結論ですが、「予防のRCTは難しいしlimitationが多い」ということが根本的なissueです。

具体的に説明していきます。

ポイントが「3つ」あります。

 

 

1: 「治療」の効果は圧倒的に強い

最初のポイントがこれです。

ガイドラインで定められている治療の効果はかなり強く、その他全ての予防手段の効果が希釈されます

 

例えば、心筋梗塞後のスタチンは、世界中のガイドラインで定められている標準治療です。

疫学者が「心筋梗塞後の減塩食事療法」がどれくらい効果があるのか調べたいとしても・・・

患者の予後は、減塩の有無に関わらず、スタチンの有無でほぼ規定されてしまいます。

 

それで???

→患者を対象とした疫学研究を行うのが非常に難しくなります。

具体的には、膨大なサンプルサイズが必要になってしまいます

*医学治療と食事のinteractionなど、questionとしては面白くとも、ほぼ必ずpower不足となります。

 

 

2: 「予防法」のRCTはlogistics的に難しい

基本的に医学治療はRCTの結果をもって「エビデンス」として認定され、ガイドラインに組み込まれます。

しかし、予防については、logistics的にとても難しいのです。

 

まず、上述の通り「患者」でなく「健常者」が対象になります。

すると、こんな問題が生じます:

 

1: リクルートが難しい

患者はPIや協力者が勤めているで病院を介してリクルートできます。しかも新薬を試せる+治療費で苦しい中金銭的incentiveがある、という状況なので、リクルートが簡単です。

一方、何も困っていない健常者に、例えば数年間同じサプリを毎日飲んでもらう、というのは、よっぽど何かしらのincentiveがないと難しいですね。

また、どうアプローチすれば参加者を集められるのか、というのは現実的にとても難しい問題で、何かしらの団体と繋がりがないと大変です。

 

2: 健常者は病気になるリスクが低い

当然二次予防より一次予防の効果は微弱です。それは介入の強さという側面に加え(二次予防の方が強かったですね)、そもそも健常人が「健康」である、というポイントが大きいです。

よって、治療薬のRCTよりも膨大なサンプルサイズが必要となります。

ざっくりですが、医薬品のphase-3 trialは数千人程度が多いですが、一次予防のRCTは数万人規模が普通です(こちら参照)。

*例えばVITAL trialは1000億円以上の金が動いています。

 

 

3: 予防領域では「交互作用」の影響が甚大

これがツイートで紹介したポイントです。

まず「医学的治療」は、生理学的なメカニズムに基づくので、「〇〇がないと/あると効果が減弱する」という事象が起きにくいです。

いわゆるEffect modificationです(詳細こちら

*当然ありますが、その因子はclinicalなものが多く、数が限られています(循環器領域では、例えばEFなど)

 

一方予防領域では、膨大なeffect modifierを念頭に置く必要があります。

例えばビタミンサプリメントであれば、そのビタミンが欠乏/過剰となる全ての因子が、強いeffect modifierとなり得ます

 

ビタミンDについて考えると、特に日照時間と食事からの摂取が重要ですが、
・日照時間は測定が難しいので、緯度、地域(の天気)、仕事の種類、ペットの有無など
・日光を浴びることでどの程度ビタミンDが生成されるか、という遺伝的、人種的な特徴
・日焼け止めを使う頻度
・食事はいろいろ
などが全てEffect modifierです。

 

そして、サンプリングした集団の「effect modifierの分布」により、その予防効果がかなり規定されてしまうのです!!

例えば、リクルートが難しい都合により、ほとんど「日照時間の多いエリア」からしかリクルートできなかった場合、ビタミンDのRCTは絶望的です(結果はほぼ必ずnullとなります)。

そしてそして、そもそも「その集団」の平均因果効果を求めたことで、何が言及できるのか、謎になります。

その結果がgeneralizableできるのは「その集団」ですが、「その集団」はどんな集団なのか、言い表すことは困難ですね。

*医薬治療のRCTの場合は「その患者群」です。当然selection biasはありますが、一次予防のTrialほどではありません。

 

 

疫学研究のエビデンスは「観察研究のメタ解析」が重要

疫学研究のエビデンスは「観察研究のメタ解析」が重要

以上より、疫学研究の場合、RCTに期待するのはあまり現実的ではありません。

そこで観察研究が大事になってきます。

疫学研究の場合、臨床研究と比較し、同じトピックがさまざまなコホートで検証されている、という事実があります。

これが強みとなります。

 

そもそもRCTの強みとは、baselineでのconfoundingが無視できることにあるのでした(詳細こちら)。
*なおselection biasは生じ得ます(詳細こちら

観察研究ではconfoundingを除去することはできません。

ところが・・・・

たくさんの観察研究をメタ解析すると、それぞれのバイアスがうまく帳消しされるのです!!

これが「疫学研究のエビデンスの柱」となります。

 

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よって、とりあえず沢山の集団で、たくさんの観察研究が行われることが重要になります。

*RCTでも同じですが、これはいろんな理由で「質の高いRCT」が「よりどりみどり小規模RCTのメタ解析」より重要なエビデンスだ、と位置付けられます。これもいつか解説するかもしれません。

 

なお、当然ながら、ここでの「エビデンス」とは「平均因果効果」を意味します(詳細こちら)。

つまり「地球人に対する効果」を推定することが目標となります。

これはとても大事で、例えば様々な政策の決定要因となります(EBPMに基づく場合;日本は違いますね)

 

しかし上述したように、予防には交互作用がつきもの・・・

よって、「地球人に対する効果」を推定すること以上の研究が求められてきており、そのあたりに「precision nutrion」という概念がpushされている背景があります。

 

 

結論

臨床研究のエビデンスはRCTからなるが、疫学研究のRCTは現実的でない。

疫学研究のエビデンスは観察研究のメタ解析に基づく。

しかし一次予防では交互作用の影響が大きく、そのあたりをはっきりさせる研究が今後重要となっていく。

ではまた。

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