エナジードリンクは健康に悪い、というのが定説です。でも疲れたときにはつい飲んでしまいます。
私達が知りたいのは、「エナジードリンクは歯を溶かす」「エナジードリンクを飲みすぎると死ぬ」といたずらに恐怖を煽る話でなく、「エナジードリンクを飲むリスクは具体的にどの程度なのか」という真実の情報です。
しかし実際科学的に調べてみると、やはりあまり勧められる飲み物ではなさそうです・・・
この記事では、エナジードリンクの健康への影響に関する最新の科学的エビデンスを、わかりやすく紹介します。これを知った上で、どの程度飲むか自分で判断して決めましょう。
エナジードリンクとは何か、はっきりさせておく
エナジードリンクは、レッドブルやモンスターなどの「砂糖入り飲料(清涼飲料水)」をいい、スポーツドリンクとは異なる性質をもちます。
エナジードリンクは、「注意力やエネルギーを高めるための飲料」というコンセプトです。
成分としては、カフェイン、砂糖、ビタミンB群、タウリン(日本ではアルギニン)などを含みます。
*ちなみに、リポビタンD、ユンケル、オルナミンC等は、日本では「栄養ドリンク」という括りですが、栄養学的にはエナジードリンクです。日本の分類は「タウリンを含むかどうか」で決まっているようです。
後述しますが、エナジードリンクの過剰摂取が世界的に問題となっています。その点で、日本で販売される「栄養ドリンク」の容量が少ない(普通100ml程度)事は、過剰摂取を予防する非常に良いアプローチだと思います。
一方、規制の少ない「日本のエナジードリンク」は、消費量が多く、注意が必要です。
繰り返しますが、日本の栄養ドリンクもエナジードリンクも、世界的には「エナジードリンク」になります。
エナジードリンクによる良い影響
私は臨床で疲れた時に、数分でレッドブルを飲んで、救急外来に戻る、ということをよくやっていました。当直中や当直明けはほぼ必ず飲んでいたし、木曜や金曜は疲れて集中力が途切れやすかったので、1日複数本飲むこともありました。実際飲むと、集中力が回復したり、疲れが飛んだ感覚があります。
こういう効果は、科学研究でも検証されています。
・メタ解析で、エナジードリンクは様々な運動能力を短期的に向上させる効果があると結論されました(Eur J Nutr. 2017; 56(1):13-27.)。
・ランダム化試験で、レッドブルはプラセボと比較し、reaction time、記憶力、運動耐容能、主観的な集中力が向上しました(Amino Acids. 2001; 21(2):139-50.)。
・ランダム化試験で、レッドブルはプラセボと比較し、運動後のreaction time、集中力が向上し、主観的疲労度が低い結果となりました(Exp Clin Psychopharmacol. 2010; 18(6):553-61.)。
・アスリートのパフォーマンスを向上させるという結果も、いくつかあります(Amino Acids. 2014; 46(5):1333-41.など)。
自分の感覚は科学研究で支持されていました。運動に効果がありそうなので、大事な試合前には飲むと良いかもしれません。
しかし、ネガティブな効果が大量に報告されていることも知りましょう・・・(次)。
エナジードリンクの害
エナジードリンクを原因として救急外来を受診する患者の数は、年々増加傾向にあります。
少し前の報告ですが、12-17歳に限っても、1年で1500人程度が米国の救急外来を受診しています(CDC報告)。
科学論文で報告されている健康被害は、次のようなものです(だいたいコホート研究のレベルのエビデンスです)。
・危険行動を惹起します(J Addict Med. 2014; 8(1):6-13., Eur J Pediatr. 2017; 176(5):599-605.)。青少年が酒、タバコ、麻薬に手を出したり、喧嘩や不登校につながります。ちなみに、エナジードリンクを飲むことでアルコール摂取量も増えます(Hum Psychopharmacol. 2016;31(1):2–10.)。
・精神的に不安定になります(Prev Med. 2014; 62:54-9., Nutr J. 2016; 15(1):87., J Caffeine Res. 2016; 6(2):49-63.)。ストレス、不安、うつ、自殺計画や実際の自殺と関連します。
・血圧上昇します(Eur J Nutr. 2014; 53(7):1561-71.)。これはランダム化試験の結果で、短期的な影響です。が、飲み続けると「血圧を上げる薬」を飲んでいることと同じです。
・心電図でQT延長が認められます(J Am Heart Assoc. 2019;8(11):e011318.)。QT延長は、突然死を引き起こす“心室細動”という不整脈の原因です。これもランダム化試験の結果です。
・肥満、2型糖尿病のリスクが上がります。これは砂糖入り飲料の研究結果です(詳細こちら)。繰り返しますが、「エナジードリンク=砂糖入り飲料」です。
・虫歯が増えます(Am J Clin Nutr. 2003; 78(4):881S-892S.)。
・糖の中でもフルクトースが、腎機能障害に関連します(Am J Physiol Renal Physiol. 2007; 293(4):F1256-61.)。
・睡眠障害、疲労感、頭痛、腹痛も引き起こします(Eur J Pediatr. 2017; 176(5):599-605., Pediatr Emerg Care. 2016; 32(11):751-755.)。結局飲みすぎていると、効果がなくなるどころか、疲労感が増幅してしまいます。
砂糖入り飲料としての健康への悪影響に加え、エナジードリンク特有の悪影響もあります。
できれば避けたほうがよい。
エナジードリンクのもっと怖い話(症例報告)
参考程度に、「エナジードリンク怖っ」と思うことのできる症例報告を紹介します。
・(有名ですが、)日本の20代前半の男性が、エナジードリンク摂取が原因と考えられるカフェイン中毒で死亡した(Nihon Arukoru Yakubutsu Igakkai Zasshi. 2016;51(3):228–233.)。
・レッドブルを1日1-2L飲んでいた26歳女性が、心臓がほとんど動かなくなり、人工心肺装置が挿入された(Can J Cardiol. 2019;S0828-282X(19)31267-X.)。エナジードリンクによる拡張型心筋症と診断された。
・レッドブルを12L飲んだ30代男性が、急性腎不全と幻覚を発症し、緊急透析をうけた(Case Rep Psychiatry. 2019;2019:3954161)。
・32歳男性が、レッドブルを1日5本飲んでから5時間後、超重症な急性心筋梗塞を発症した(Int J Cardiol. 2015;179:66–67.)。
他にもたくさんあります。
しかし、こういうのは誰しも当てはまる因果関係でないので、話半分で聞いておいてください。
無駄に恐怖に煽られる必要はありません。
特に中高生、大学生は注意が必要
体格が小さいから体への影響が大きい、ということだけが問題ではありません。
脳が発達過程であり、衝動をコントロールする能力が未発達であることが問題です(J Public Policy Mark (2005) 24(2):202–21)。
長期的な健康影響を考えて行動選択することが難しく(誰しも経験あると思います)、そのためエナジードリンクが習慣化してしまう危険性が極めて高いのです。
また、エナジードリンクを原因として危険行動をする可能性が高い。
エナジードリンクは、実は世界的な大問題に発展しています(Paediatr Child Health. 2017;22(7):406-410.)。
明らかに健康に悪いのに、広告規制がなされていないことが問題なのです。
軽い麻薬のようなものです(短期的な効果がある点で)。
この記事を読んだ方は、エナジードリンクの健康被害のエビデンスを知った上で、どう飲むか、どう家族に飲ませるか決めましょう。
普段は飲まず、ここぞという重要な時に飲むのが、お勧めです。
「エナジードリンクを毎日飲んでみた」みたいな自己実験は止めとけ
ブログやYoutubeでよくみますが、止めといたほうが良いです。
もう健康に悪いことはいくらでも科学的に証明されているし、「飲み過ぎたらめちゃくちゃヤバかった」人は論文の症例報告になっています。
健康をどの程度害すかは、確率的な問題です。
あなたの自己実験がそれほどのインパクトをもつ可能性は低いから面白くないし、それでいて何らかの形で健康を害します。実験する必要ありません。
あと、おそらく今後のGoogleのアップデートで、「明らかに健康を害するような報告」「健康に関する個人的な経験」は、表示順位が低下することが予想されます。
健康情報に関してはGoogle(Youtube含む)は大変問題視しており、今後信頼できる情報以外優先順位が間違いなく下がります。
個人的な経験は信頼性が非常に低いので、優先されません。
Public Healthに害となると判断されたもの(エナジードリンクの自己実験など)も、かなり下がります。
アクセス数を稼ぐ、注目を集めるという意味でも、やる価値のない分野になります。
結論
エナジードリンクは、特に若者に大きい健康被害を引き起こします。
一旦毎日飲み始めると、止めるのが大変です。しかも、ここぞという時に飲むほうが効果的です。
こういう科学的に正しい知識を持ち、その上で自分で判断することが重要です。
ではまた。