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サウナは健康に良いか【エビデンスまとめ】

サウナーは健康に良さそうだけど、無理はしない方が良いし基礎疾患がある人は止めた方が良い。

というのが、よくある「医学的」アドバイスです。しかし、、、、

医学的・生理学的にサウナによる現象を解説することができても、その実際の健康効果は全く言及できません。

頼るべきなのは疫学的なエビデンスです。

この記事では「サウナが健康に良いか」、徹底解説していきます。

 

 

サウナは健康に良いか

日本において、「サウナに入る」とは

90℃近い場所で体を温める→外や水風呂で急速に体を冷やす→外気で休む、ということを繰り返す

のが一般的だと思います。

 

この過程ですごく気持ちよくなり、それを「ととのう」と言います。

ハマる人続出。

しかしサウナ、これは果たして健康に良いのか

 

*****

医学的には、よく次のように説明されます。

・サウナで血流増加→冷やすと表面の血管が収縮する(脳への血流が増える)

・サウナ、水風呂で交感神経が活性化し、その後休むと副交感神経が活性化する

・サウナ、水風呂でアドレナリンやノルアドレナリンが分泌される

・サウナ、水風呂で血圧と脈拍が上昇する

 

なるほど〜と思うかもしれませんが、この情報は「健康に良いか」について何も言及してません!!!

単純に「熱や冷水により交感神経を刺激し、その後休ませている」ということを言っているに過ぎません。

*交感神経が活性化すればアドレナリンが出たり血圧・脈拍が上昇したりします

*サウナで血管が開くのに本当に血圧が上昇するのか???という疑問はさておいて。

 

 

サウナなんて研究されているわけない、と思いきや。

すでに500以上の論文がPubmedに発表されています。

言っても非常にマイナーな分野ですが、中にはしっかりした研究もあります。

これを紹介していきます。

 

 

サウナのエビデンス

短期的、長期的な効果にわけて説明していきます。

 

ちなみにサウナには「Finish sauna(フィンランド式)」と「Dry sauna(日本とか韓国)」があり、科学的に検証されているのはFinish saunaが多いです。

*フィンランド式とは、熱がやや低く湿度が高いタイプ、のようです。日本のは熱が高く湿度も低いタイプです。

 

短期的な効果

短期的な効果はランダム化研究で確かめられている事が多いです。

そのため因果関係としての信頼性は高いですが、、、

 

✔45名の肥満男性について、サウナ後には血圧と体重が下がっていたという報告(Biomed Res Int. 2019 Jan 21;2019:7535140.

→当たり前すぎて何も言えません。脱水ですね。

 

✔心不全マーカーへの影響に関するメタ解析(Clin Cardiol. 2018;41(11):1491-1501.

→EFの改善、BNPの低下、左房系の低下につながったとのこと

→これもかなりの脱水になることから当然

 

✔FMDという血管機能も改善するという報告(Can J Cardiol. 2020;S0828-282X(20)30580-8.

→これは脱水で説明つかないのでやや面白いですが、所詮FMDでありインパクトは少ないです。

→しかもサウナ入ってすぐ。長期的な結果が知りたいところ。

 

✔6週間のサウナ介入(週3回、1回5分×6)により、アレルギー性鼻炎のタイ人26人において、自律神経調節機能や1秒率が改善したとの報告(Asian Pac J Allergy Immunol. 2013;31(2):142-147.

→少人数ですが、少し面白い報告です

 

Dry saunaについてのエビデンスは、ほとんど日本の「和温療法」研究グループからです(Alternat Med. 2018;2018:1857413.)。

・主に心血管疾患のマーカーがよくなったとする報告がほとんどです。対象は入院中の心疾患患者です

*「入院中」というのは、おそらく落ち着いた心不全などで急性期では無いです。この点、入院基準の異なる他の国との整合性は取れません。

→アウトカムの改善は、血管内脱水によりほとんど説明されますが、論文として複数発表しているのはすごいと思います

→また、生理学的機序的に心負荷は軽減されるため、「心臓が悪い人はサウナに入らないほうが良い」という一般常識のアンチテーゼとなっています。

 

まとめると、RCTにより確かめられているのは、ほとんど「サウナによる血管内脱水」で説明されうる事象ということです。

 

 

長期的な効果

サウナの頻度を前向きに記録された2000人程度を対象としたフィンランドのコホートがあり、これがサウナ関連のエビデンスの大本となっています。

当然Dry saunaでなくFinish saunaです。多くの疾患との関連性が報告されています。

こんなものがあります:

 

・深部静脈血栓症のリスク低下と関連するという報告がありますが、サウナ2-3回/週はリスクが下がり4回以上は変わらない、とのこと(Eur J Epidemiol. 2019;34(10):983-986.)。

→サウナの効果(因果関係)ではないと考えます。

 

・突然死との関連についてはsystematic reviewが発表されているが、基本的にこのフィンランドのコホートがエビデンスです(Prog Cardiovasc Dis. 2019;62(3):288-293.

→週4~7回 vs 週1回のハザード比 0.37, 1回11分未満 vs 19分以上のハザード比 0.48、という驚異的に良い結果でした

 

・死亡、心血管病による死亡のリスクを下げるという結果が、有名な医学誌に掲載されています(JAMA Intern Med. 2015;175(4):542-548.

→これが少し話題を呼びました。

 

・その他、脳卒中(Neurology )、肺炎(Respir Med. 2017;132:161-163.)、肺疾患(Eur J Epidemiol. 2017;32(12):1107-1111.)、認知症(Age Ageing. 2017;46(2):245-249.)のリスクを減らした、CRPが低かった(Eur J Epidemiol. 2018;33(3):351-353.)という報告もあります

 

・negativeな結果としては、Finish saunaの頻度は癌の発症に関連しなかったという研究があります。

→疫学研究としてはサンプル数が少なく、関連しないとは言い切れません(Eur J Cancer. 2019;121:184-191.

 

すげーーーめっちゃ健康に良いじゃん!!!!

と思うかもしれませんが、残念、おそらくこれは因果関係を捉えられていません(このLetterでも指摘されています:JAMA Intern Med. 2015;175(10):1718.)。

理由は次の通り:

 

<Residual confounding>

・まず、こんなにも全ての疾患に効くわけがありません。本当なら、スタチンや糖尿病治療薬よりも全然強い効果です。

→つまり、全ての疾患に効くわけでなく、「全ての疾患のリスクが低い人がサウナにたくさん入っている」というだけの可能性が高いです

*これはフィンランドであり、日本の状況とは全く異なります。

・これらの報告では社会経済的な因子が調整されていません。

→サウナに週4回以上も入れる人は、社会的、経済的に恵まれている人である可能性が高いです

 

<Reverse causation>

・サウナに入るから健康になるわけでなく、サウナに入れる人が健康なだけの可能性も十分あります

→心肺機能の低い方、他の基礎疾患がある方は、サウナに頻繁に入れるほど元気でない可能性がありますね

 

<Generalizability>

・更に、この国のサウナに対する特殊性のため、この結果は一部真実だとしても、フィンランドでしか当てはまらない可能性が高いです。

 

ということで、サウナ(Finish sauna)→健康、という因果関係はわかりません。

 

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このフィンランドのコホートがエビデンスのほとんどですが、他にもいくつか報告があります。

例えば、、、

・Dry saunaがQOLを上げたけどBMIは変えなかった、という韓国の38名を対象とした報告(Korean J Fam Med. 2020;41(5):312-317.

→こういうのは症例数が少なすぎて、しかもコントロール群もなく、なんとも言えません

 

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以上、集団を対象としたエビデンスでした。

まとめると、「フィンランドでは健康に良いとする報告が多数あるが、因果関係とまでは言えない」というエビデンスしか無さそうです。

 

個人個人をみてみれば、サウナによる死亡例もあるので、健康を害しているケースが多々あります。

いくつか症例報告を紹介します。

 

 

症例報告・Case-series

・サウナでの死亡例ですが、「フェンタニルパッチ」というオピオイドの血中濃度が高くなりすぎていた、という報告です(Am J Forensic Med Pathol. 2020;41(4):313-314.

→サウナによりフェンタニルの吸収スピードが早くなりすぎたのかと考えられます。

 

・サウナで死亡した103人について韓国の報告(Forensic Sci Med Pathol. 2018;14(3):307-313.

→血中アルコール濃度が高かった(=アルコールを飲んでいた)人が76人で、飲んでいた人は男性が多く、死亡時にうつ伏せであったことが多かった、とのこと。

 

当然ですが、基礎疾患があったりアルコールはダメですね。

*心疾患については、和温療法グループは「大丈夫」というスタンスですが、患者個人の判断で使うのは推奨されません。交感神経亢進による急性心不全や心筋梗塞のリスクがあるのは間違いないですから。

 

 

さて、サウナが健康に良いと言えるか。

以上、現在までのエビデンスをまとめると、こうなりそうです。

 

・サウナ直後では、血管内脱水により、体重が減少し、心臓機能のマーカーが改善する

・しかし長期的な影響は不明

・フィンランド式サウナについて、長期的に良い健康効果があるという報告があるが、全て同じコホートからのものであり、しかも因果関係とは言えない

・個別な例では死亡例も多数ある

 

まあ、健康に良いとは言えなそうですね。

悪いとも言い切れないですが。

 

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いくつか考察してみました。

 

✔まず、かなり脱水するということついて。

一度のサウナで、長く使う人なんかは2kgくらい体重減少することもあるそうです。

一回それくらい汗をかくことくらい何の事はありません。すぐ飲水して戻りますから。

しかし、2つの側面で注意が必要です。

 

1  その飲水手段がスポーツドリンク等の場合、ものすごい量の糖分を摂取することになります

→これは明らかに健康に悪いです(この記事参照

→ダイエット〇〇など人工甘味料入り飲料の場合も、健康を害する可能性があります(この記事参照

 

2  かなり習慣的にサウナに通っている場合、脱水の状態が定常化してしまう恐れがあります

→脱水は心負荷を軽減しますが、腎臓にとっては悪いです。

→腎血流量が減るとRAS系が亢進し血圧が上がり、色々悪いことが起きます

健常人が利尿薬を定期内服している状態に近いと思います。健康に良くはありませんね。

*これはエビデンスはなく(検証されていません)、純粋な生理学的考察です

 

✔続いて、死亡例があるということについて。

・上にも書きましたが、交感神経の活性化は、急性心不全と急性心筋梗塞の明らかなリスクです

→つまり、サウナがトリガーとなりこのような疾患を発症する可能性はゼロではないです

→当然、ベースラインのそれらのリスクが高い方にしか起きませんが、例えば60代、高血圧・糖尿病あり、喫煙者なんかは超超ハイリスクであり、避けるべきと考えます。

*「疾患のトリガーとなる」という事象はめちゃくちゃ稀なので(高リスクの人でも、ある特定の日に心筋梗塞となる確率は極めて低いですよね)、一般的な疫学的検討での「健康に良い/悪い」という結果とは別次元の話だったりします

→例えば、運動は心筋梗塞のトリガーとなりますが、運動自体はとても健康に良い。これと同じです。

 

・アルコールを飲んでサウナに入るのは、生命を危険に晒す行為です。絶対だめ。

 

・色んな基礎疾患がある方も、基本的には避けたほうがよいです。入るメリットはほぼありません。

 

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最後に、「ととのう」のはなんでか。

・わかりませんが、自分の経験では「前失神」に近い状態が続くこと、だと思っています。

→急速な冷却で神経調節性失神のメカニズムが働くため。徐脈+血管拡張ですね。

 

 

結論

サウナはものすごく脱水を引き起こす。

サウナが健康に良いとは言えない。

ではまた。

  • B!