前向き研究と後ろ向き研究の違い、はっきり区別してますか?【意味を理解する】

前向き研究と後ろ向き研究、違いをはっきり把握していますか?

ランダム化試験=前向き、コホート研究=後ろ向き、と考えていませんか?

違います。だったら「前向き」「後ろ向き」を定義する必要が無いわけです。

この記事では、ハーバードでの定義を紹介し、その意味を解説します。

世界共通の定義はおそらく無いですが(それが問題)、ここに紹介する定義に従えば、まず間違いありません。

 

 

Contents

前向き研究と後ろ向き研究の違い、はっきり分かりますか?

前向き研究と後ろ向き研究を、ほとんどの人が定義できていない

 

「前向き・後ろ向き」に関して、私のほろ苦い経験をお話します。

 

ある臨床研究(病院のデータを使ったコホート研究)を国際誌にsubmitして、reviseとなりました。

reviewerのコメントの一つに、「この研究は後ろ向きのように感じられる」というものがありました。

私はmanuscriptに「前向き研究」と書いていました。

実際前向きだったのですが。

 

しかし、このときは前向きか後ろ向きか定義に自信がなく、「研究デザインは前向きだが、後ろ向きの解析かと聞かれれば後ろ向きだ」と(一見意味不明な)返答をしました。

するとそのreviewerは「前向きか後ろ向きか、変更することは許されない」とコメントし、Editorの判断でrejectとなってしまいました。。

 

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確かにstudy designを嘘ついて論文を書くことは、断じて許されません。

ただ、返答も含め嘘はついていませんし、今振り返れば実は正しい表現だったのです。

この時点で私がきちんとそれらを定義できず、reviewerにわかるようはっきり説明・主張できなかった事が原因でした。

 

そもそも「前向き研究」「後ろ向き研究」がしっかりと定義できていれば、私のmanuscriptを読めば前向きだと分かったはずなのです。

つまり、その質問をしたreviewerも、おそらくeditorも、私も、全員「前向き研究」が定義できていなかったわけです。

 

👴

 

はっきりとした定義が浸透していないのは重大な問題だと思います。

科学的な議論になりませんよね。上の議論はただのimpressionに基づいています。

ここではっきりさせましょう。

 

*ランダム化試験が前向きなのは当たり前なので、この記事ではコホート研究に限って話をしていきます。

 

 

前向きコホート研究と後ろ向きコホート研究の違い

前向きコホート研究と後ろ向きコホート研究の違い

 

ハーバードでは次のように定義しています。

「Exposureの測定がOutcomeの測定より前なら前向き研究、後なら後ろ向き研究」

これが一番論理的なdefinitionです。

どういうことでしょう?掘り下げていきましょう!

 

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ほとんどの臨床研究・疫学研究は、「〇〇により☓☓が起こるか」という因果関係を追求したいがためのものです。

疫学用語で、因果関係の「原因」をExposure、「結果」をOutcome、と言います。

 

例えば:

心不全患者に対し、スタチンで脳卒中を予防できるか」という研究において、Exposureはスタチン、Outcomeは脳卒中です。

ICUでの低K血症は高い院内死亡率を予測するか」というのも「因果推論」の一つと考えます(いわゆるprediction modeではありませんよね)。この場合、Exposureは低Na血症、Outcomeは院内死亡です。

 

私の研究は、「MRIを取った患者の中で、あるMRI所見がその後のイベントと関連するか」という研究でした。

→よって、ExposureはMRI所見、Outcomeはイベントです。

 

さて、Exposureの測定がOutcomeの測定より前か後か、考えていきましょう。

明らかに、MRIはイベント発生前に測定されています。

→よって、私の研究は前向きコホート研究でした。

→より正確に言えば、Study designは前向きだ、ということです。前向きか後ろ向きかは、Study Designの事を言っています。

*測定された画像の解析は、ここでは関係ありません(outcomeがわからない状態で解析すればOKです)

 

後ろ向きコホートは、例えばこんな研究です。

ある工場で最近喘息になっている人が多い。何が原因なのだろう。

この場合、Outcomeが測定されている集団の中で、新たにExposure(例えばある化学物質の室内濃度)を定義し、その関連性をみます。

→よって後ろ向きです。

 

 

この研究はどちら向き?

Exposureの測定がOutcomeの測定より前か後かの判断ができるようになる事が重要。

そこで、いくつか例を確認してみましょう。

 

✔狭心症で心臓カテーテル検査を行った患者の血液検体で、あるバイオマーカーを測っておきます。ある程度人数が増えた時点で、予後のデータを取り、そのバイオマーカーと予後の関係を調べました。これはどちら向きのコホート研究でしょうか?

→答えは「前向き」です。

 なぜなら、そのバイオマーカーを測定している(Exposureの測定)がOutcomeの測定より前だからです。

 

✔臨床経験から、狭心症患者において、1年越しのあるバイオマーカー(クレアチニン)の変化量が、その後の予後と関連するだろうと予想し、研究をすることにしました。しかし狭心症患者で、クレアチニンを1年越しに測っている人は限定されます。これはどちら向きのコホート研究でしょうか?

→答えは「後ろ向き」です。

なぜなら、Exposure(1年越しのバイオマーカーの変化量)の測定が、Outcomeの測定(厳密には予想)より後だからです。

*つまり1年越しにCreを測っている、というselection biasがあるということです(後述)。

 

✔CTのレジストリー研究は全部前向きでしょうか?

→そうです、全部「前向き」です。

 なぜなら、CTの何らかのパラメーターをExposureとし、様々なOutcomeをみるため、Exposureの測定がOutcomeの測定の前だからです。

 

 

その研究が登録されているかはどう考える?

疫学・臨床研究はなんであれ、倫理委員会を通さないとだめですね。

これは前向き研究か、後ろ向き研究かとは関係ありません。

 

研究をUMINClinicalTrials.govに登録することはどうでしょうか?

データ収集前に登録していれば「前向き」であることを意味しますが、登録していなくとも「後ろ向き」であることを意味するわけではありません

登録していればどうこうというわけではなく、「Exposureの測定がOutcomeの測定の前か後かが定義です。

ただ、同じ前向きコホート研究でも、ClinicalTrials.govに登録されていれば、信頼性と質が高いと評価される、という違いはあります。

 

 

なぜ「前向き・後ろ向き」を定義する?

前向きは質が高く、後ろ向きは質が低いからです。

 

これがポイント🎯

 

なぜなら、、、

後ろ向き研究は、Outcomeが測定された後でExposureを測定するため、selection biasが生じうるからです。

分かりやすく言うと、Outcomeの有無に応じてExposureの有無が変わってしまう可能性がある場合を、後ろ向き研究というわけです。

 

例を振り返りましょう。

✔クレアチニンの1年の変化量と予後の関係を調べた研究を考えましょう。

→その臨床医は、クレアチニンが1年間で上がる人は予後が悪い、という経験を基に研究をデザインしています。

→しかし、クレアチニンを1年越しに測っている人は限定されます。

→しかしデザイン上そういう人しかincludeされないので、selection biasが生じるということです。

 

✔私の研究(MRI所見と予後の関係)を考えましょう。

→そもそもMRIを取っている人しかincludeされず、outcomeに応じてExposureである画像が変わるわけはありません。

→なので、前向き研究です。

 

*もちろん、Outcomeがわかる状況でMRI画像を解析しては、バイアスが生じます

これはそもそも研究として成り立ちません

→よって、画像解析がExposureの場合、Outcomeの情報がわからない環境(コアラボともいいます)での解析が望ましく、そうであれば研究の信頼性が高くなります。

 

もし「どちらの測定が前か」わかりにくければ、「その研究デザインでselection biasが生じないか」と考えてみてもよいと思います。

 

*補足です。

コホートとコホート研究は違います。コホートは対象集団で、コホートを使った研究がコホート研究です。

→なので「前向き・後ろ向き」なのはコホートでなくコホート研究です。

 

 

結論

Exposureの測定がOutcomeの測定より前なら前向き、後なら後ろ向き研究というデザインです。

コホート研究=後ろ向き、と信じている臨床医は非常に多いですが、間違っています。

自信を持って、前向き、後ろ向きを主張しましょう。

ではまた。

-疫学・臨床研究

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