コーヒーは健康に良い、と聞いたことがある人がほとんどだと思います。
「カフェインの抗酸化作用が良い」「実は発がん性物質を含んでいる」とか色々理由を聞きますが、一体何がどう正しいのでしょうか。
実はコーヒーの健康効果に関する研究は、日々進展しています。
この記事では、最新の疫学研究に裏打ちされたコーヒーの健康効果を網羅的に解説します。
*「具体的にどういう疾患予防につながるか」「コーヒーを控えるべき状況はどういうものか」「デカフェは効果があるか」こういった疑問に科学的に答えを出します。
Contents
コーヒーの健康効果について誤解されてがちなこと

「コーヒーはカフェインによる抗酸化作用が良いから健康に良いんだ!」と主張する方へ。
それは正しい説明ではありません。
なぜなら・・、
✔コーヒーが含んでいる栄養素は他にもたくさんあります。コーヒー=カフェインではありません。
→ポリフェノール、トリゴネリン、メライノイジン、様々なビタミン・ミネラルなど、様々な良い栄養素がコーヒーには含まれます
→その作用も、抗酸化作用だけでなく、腸内細菌への影響や、糖・脂質代謝の調整など色々あります
*そもそも、食事の健康効果を「一つの栄養素だけに着目して説明する」事はできません(詳細こちら)
✔焙煎されたコーヒーには、「発ガン性物質」とWHOに指摘されている物質(アクリルアミド)が含まれています(詳細こちら)。これは考えなくて良いのでしょうか?
→これも同様の話です。そのマイナスと他の栄養素のプラスの効果を差し引いて考える必要があります。
✔カフェインが本当に体に良いなら、カフェインのサプリメント摂取が推奨されていると思いませんか?
→むしろ体に悪いイメージがありませんか?
✔明らかに、カフェインにより体調不良を来す方がいます。
→これは「健康の定義」の問題です。長期的な影響と短期的な影響は異なります(詳細こちら)
これをしっかり理解することが、まず重要です。
コーヒーの健康効果は、コーヒーを飲む人と飲まない人を比較した研究でしか立証できません!
でもそれだと観察研究になるので因果関係はなかなか言えないので(「コーヒーを飲んだから〇〇」ということ)、栄養素に着目して、そのサプリを使ったランダム化試験をやったりするんです。
これがめちゃくちゃ大事です。
*これが本当になかなか理解できない方がいます。そういう方は、「還元主義」という考え方である事が原因と思われます(こちら参照)。
平易に言うと「細部にこだわりすぎて全体が見えない」。
人の健康について還元主義的に説明することは、実質上不可能です。
科学研究で証明されているコーヒーの健康効果
実際にどんな効果が証明されているか、みていきましょう。
ちなみに全部、ブラックコーヒーの効果です。砂糖や乳脂を加えると健康への悪影響が想定されえます。
*2020/7/25 エビデンスをアップデートしました(一部N Engl J Med 2020; 383:369-378に基づいています)
死亡率
✔2019年の死亡率に関するメタ解析です(Eur J Epidemiol. 2019;34(8):731–752.)
・コーヒーを飲まない状態と比較し、1日3.5杯飲むことで15%の死亡率低下、2.5杯飲むことで17%の心血管疾患による死亡率の低下、2杯飲むことで4%の癌死亡率低下が認められました。
・これ以上飲んでも、それぞれの死亡率低下には寄与しませんでした。
・特にアジア人とヨーロッパ人にて、コーヒーによる良い効果が顕著に認められました。
→以上より、1日2-4杯のコーヒーを飲むことが、死亡率低下という最強の健康効果が期待される事がわかりました。
これが大事
心血管病・血圧・コレステロール
✔2014年のメタ解析では、心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患の抑制効果があるとされました(Circulation. 2014;129(6):643–659.)。
✔Mendelian Randomizationという疫学手法(この記事参照)で、コーヒーと脳卒中の関連性は因果関係でないことが示唆されました(Ann Neurol. 2020;10.1002/ana.25693.)。
→コーヒーを飲んでいる人に脳卒中リスクが低いが、それはコーヒーのせいでないということです。
→しかし決定的な結論でなく、因果関係かどうかに関しては、まだはっきりしていません。
✔血圧は一時的に上がりますが、長期的には血圧の影響は無いと言われています(J Hypertens. 2012;30(12):2245-2254.)
...一時的に上がるのはカフェインによりアドレナリンが出るせい。長期的にはコーヒーの色々な良い栄養素のおかげでしょう。
✔濾過された(普通の)コーヒーはコレステロールに作用しないというメタ解析があります(Am J Epidemiol. 2001;153(4):353-362.)
・一方、濾過されていないコーヒー(フレンチプレスやターキッシュコーヒー)はコレステロールを上げるかもしれません(同じ研究)
まとめると、
コーヒーは心血管疾患の抑制効果が期待できそう
となります。
癌
✔癌全体としてみたときに、コーヒーは癌の発症率とも(Sci Rep. 2016;6:33711.)、癌による死亡率とも(Eur J Epidemiol. 2019;34(8):731-752)関連しない、とされています。
→最近のMendelian randomization studyによっても、コーヒー摂取量は癌の発症・癌による死亡の原因となっていない事が示されました(Int J Epidemiol. 2019;48(5):1447-1456.)
✔それぞれの癌の発症リスクについては、2020年にUmbrella reviewが出版されました(BMC Cancer. 2020;20(1):101.)。これは今までのメタ解析のまとめ+質の評価なので、非常に参考になります。
↓
✔発症リスク低下と関連
Strong: なし
Highly suggestive: 子宮体がん、肝臓がん、メラノーマ、口腔がん
Suggestive: なし
Weak: 乳がん、大腸癌、直腸がん、食道がん、メラノーマでない皮膚がん
✔発症リスク上昇と関連
Strong: 急性リンパ球性白血病
Highly suggestive: 膀胱がん
Suggestive: 肺がん
Weak: 白血病
補足ですが、
・肝臓がんは日本人に限定した研究でも、関連性が認められました(Nagoya J Med Sci. 2019;81(1):143–150.)。
・食道癌抑制する効果は微妙ですが、アジア人にはあるかもしれません(Medicine (Baltimore). 2018;97(17):e0514.)。
まとめると、
癌全体では抑制効果は明らかでない。個別癌発症リスク低下との関連性はいくつか言われているが、決定的でない。
くらいになるでしょう。
その他
✔コーヒーは糖尿病発症、悪化を抑制することが示されています(Diabetes Care. 2014;37(2):569-86., Eur J Nutr. 2014;53(1):25-38.)。
→一方、カフェインはインスリン感受性を低下させると言われています(Diabetes Care. 2002;25(2):364-369.)
→つまりコーヒーのカフェイン以外の栄養素が糖尿病予防に良いだろうと考えられます。
*当然ですが、コーヒーに砂糖いれちゃダメです(詳細こちら)。
✔うつ病、自殺のリスクを低下させる可能性があります(Aust N Z J Psychiatry. 2016;50(3):228-42., World J Biol Psychiatry. 2014;15(5):377-86.)。
→この効果はデカフェでは認められず、カフェイン摂取と関連する可能性が示唆されています。
✔パーキンソン病のリスクが減りそうです(Annu Rev Nutr. 2017;37:131–156.)。
→この効果はデカフェで認められませんでした(Geriatr Gerontol Int. 2014;14(2):430-439.)
✔他にも、
・膵炎のリスクが減るかもしれませんが、メタ解析の質は低いです(Dig Dis Sci. 2018;63(11):3134–3140.)。
・認知症との関連はなさそうです(Nutrients. 2018;10(10):1501.)。
・2014年のメタ解析では関節リウマチ発症の高リスクと関連しましたが、質は低いです(Clin Rheumatol. 2014;33(11):1575–1583.)。
→その後、大規模な観察研究では関連性なし(J Clin Rheumatol. 2019;25(3):127-132.)、Mendelian randomization studyでも因果関係は示唆されず(Clin Rheumatol. 2018;37(10):2875-2879.)、因果関係なしとするデータが優勢です。
まとめ
まとめると、コーヒーは、死亡率、心血管病、いくつかの癌、他(糖尿病やうつ病など)のリスクを低下させることが示唆されています。
いくつかの癌のリスクは上げるかもしれませんが、癌全体として見た時にリスクは高くなりません。
*ただ因果関係については決定的ではありません。
総合的に、明らかに利益の方が不利益より強いです。
大体1日2-4杯から、明らかな効果が認められるようです。
*デカフェについては後述。
科学的に証明されたカフェインの短期的効果

一方、コーヒーでなくカフェインの効果を検証した研究も、たくさんあります。
これはカフェインサプリを使ったランダム化研究が行えるので、観察研究より信頼性高い因果関係が言えます。
ここでは、科学的に示されているカフェインの短期的な良い効果・悪い効果をまとめます。
ちなみに1杯あたりのカフェイン含有量は:
・焙煎コーヒー:100~200mg
・エスプレッソ:60-70mg以下
・紅茶:50mg
・緑茶:30mg
くらいです。
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✔まず重要なのが「目が冴える」という誰もが経験ある作用。これは詳細に調べられています。
・薬理的には、アデノシンを阻害することで覚醒を促します。
・RCTのメタ解析では、40-300mgのカフェインを摂取することで疲労低減や覚醒の効果が得られる事が示されました(Sleep Med Rev 2017;31:70-78.)
・この効果は寝不足な時により強く得られます(Neurosci Biobehav Rev. 2020;108:877–888.)が、、、
→長期間(研究では5時間睡眠を5日間)の睡眠不足による集中力低下はリバースできないとされています(Sleep. 2017;40(12):10.1093/sleep/zsx171.)
・夕方以降にカフェインを取ると睡眠の質が下がります(Sleep Med Rev. 2017;31:70-78.)
つまり「よく寝ろ」「朝〜昼、疲れた時にカフェイン取れ」ということです
✔運動のパフォーマンス向上に効果があります(Br J Sports Med. 2019;bjsports-2018-100278.)
・ボート漕ぎのパフォーマンスも向上するようです。試合前に2000mgの服用です(Nutrients. 2020;12(2):E434.)。
ウェイトリフティングをやっている友達に聞くと、選手はほぼ皆試合前にカフェインを服用するそうです
✔鎮痛効果もあります
・100-130mgのカフェインを鎮痛薬に加えると、鎮痛効果が高まったというRCTのメタ解析があります(Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014(12):CD009281.)。
ちなみに、カフェインを飲むと一過性に血圧が上がりまが、脳卒中などとの関連は内容です(J Cardiovasc Electrophysiol 26:1–6., Pharmacotherapy 34:555–560.)。
✔不安感を増幅させます
・1回200mg以上、1日400mg以上の摂取がリスクです(J Alzheimers Dis. 2010;20 Suppl 1:S239-S248.)
✔副作用があります
・取りすぎる(1.2g以上など)と不安、頭痛、振戦、興奮が生じます。10~14g以上取ると致死的ともいわれています。
→コーヒーを飲みすぎて致死的になることは普通ありません。70杯以上必要です。
→むしろエナジードリンクの問題といえます(参照こちら)
・毎日カフェインを取っている方が急に止めると離脱症状をきたします。頭痛、疲労感、鬱など。
→1-2日がピークで、1週間くらいで治ります
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カフェインサプリ、ここぞという時に一発使うのは非常に効果がありそうです。
でも慢性的に使うべきでない。
そして繰り返しですが、「カフェインの効果=コーヒーの効果」ではありません。
デカフェは効果あるの?
「コーヒー」として調査されている研究が多く、特別にデカフェにフォーカスしている研究は少ないですが、いくつかあります。
また、「コーヒーとしては健康効果があるが、カフェインとしての健康効果がある/ない」といった結論からも、デカフェの効果は推察されます。
いくつかデカフェのエビデンスを紹介します:
・死亡率抑制効果がありそうですが、メタ解析の質は低いです(Br J Nutr. 2014;111(7):1162–1173.)。
・大腸癌、肝臓がん、子宮体がん発症抑制効果が示されています(Nutrients. 2019;11(3):694.、BMJ Open. 2017;7(5):e013739、Sci Rep. 2015;5:13410.)。
・糖尿病発症の抑制効果はありそうです(Diabetes Care. 2014;37(2):569-86.)
→これに関しては、カフェインはむしろマイナスと考えられています
・関節リウマチ発症抑制効果がありそうです(Clin Rheumatol. 2014;33(11):1575–1583.)。
一方、パーキンソン病やうつ病については「コーヒーの中のカフェインが効く」と推察されています。
また、デカフェはカフェイン入りコーヒーと比較し、エフェクトサイズ(何%疾患罹患率を下げるか)が概して低いです。
よって、カフェイン自体にも健康効果があると推察されます。
*かと言ってカフェイン入りを飲んだほうが良い、とまでは言えません。カフェイン飲めなければデカフェで全然OKです。
コーヒーを飲むことを控えるべき状況
✔有名ですが、妊娠中は控えたほうが良さそうです。
・コーヒー中のカフェインを原因として、流産のリスクが高まります(Int J Gynaecol Obstet. 2015;130(2):116–122.)。
→1日2杯コーヒー(カフェイン150mg)摂取が増えるたび、流産のリスクが8%増えると報告されています。
・低出生体重児となるリスクも増えます(PLOS ONE 2015 10:e0132334)。
→1日1杯コーヒー摂取が増えるたび、低出生体重児のリスク(オッズ比)が3%増えるという報告。
*ただし、はっきりとした閾値(どれだけ飲むと危険か)は示されておらず、喫煙や妊娠一期の吐き気によるresidual confoundingの影響も否定できていません
→つまりはっきりはしていないということです。
→ガイドラインとしては、妊娠中はカフェインを1日200mg以下(コーヒー1杯以下)にする指示となっています(EFSA J 2015;13(5):4102-4102.)
流産や低出生体重児となるのは嫌なので、エビデンスははっきりしていないが、カフェインは避ける方が無難だろうという意味です。
✔カフェインの副作用が出てしまう方は、無理して飲む必要はありません。
・副作用とは、飲んですぐの頭痛、吐き気、めまいのことを言います。副作用自体は長期的な健康には関わりません。
・デカフェでも健康効果が期待できます。
・コーヒーによらずとも、その他の多くのストラテジーで、食事による健康効果の恩恵を受けることができます。
→飲み物はお茶、紅茶、水のどれかにしましょう。ストラテジーの外観はこちら。
結論
コーヒーは健康に良いです。1日2-4杯を目安に、コーヒーを飲みましょう。
またこの記事を読み、カフェインが入っているから、というのがコーヒーの健康効果を説明しないが理解頂けたかと思います。
ではまた。