歯周病は心血管病のリスクなのか【論文解説】

ご無沙汰してます!

今回は、最近出版した私の論文の解説です。

「歯周病は心臓に悪い」って聞いたことがないでしょうか?

これを実際に検証したものです。結果やいかに!?

 

 

歯周病は心血管病のリスクなのか

歯周病は心血管病のリスクなのか

歯周病はかなりメジャーな病気です。成人の半数近くが罹患しているとも言われています。

これが心臓病のリスクだなんて、とても衝撃的ではないでしょうか。

 

実は、歯周病と心疾患との関連性はかなり以前から研究されてきました。

心筋梗塞は心臓の血管が動脈硬化のために詰まってしまう病気ですが、動脈硬化の病態の本質は「脂質の蓄積」と「炎症」です。

コレステロールが血管壁にたまって・・・というのは想像しやすいかと思いますが、炎症も大事です。

実際、血管内に脂質性プラークがある箇所は炎症が生じ、炎症によってそれが大きくなったり破裂したりします。

つまり、炎症はメカニズム的に「心筋梗塞の原因」なのです。

 

ところで歯周病。これは歯周病菌の感染症なのですが、歯周病菌による炎症は歯という局所ではおさまらず、全身に波及することが知られています。

(なお、歯磨きするとちょっとした菌血症になることも有名です)

なので、歯周病による炎症が心筋梗塞の原因となるのではないか、といわれてきたわけです。

 

しかし!!

歯周病の患者さんは、そうでない方と比較し、色々生活習慣が悪いです。

圧倒的に悪いのです。

なので、「その他の条件が同じときに、歯周病の有無だけが異なる」という比較が難しく、なかなか疫学的に「歯周病が心筋梗塞の原因だ」という決定的なエビデンスを出すのが難しいのです。

今回、特にエビデンスが少ない、「二次予防領域(一度心血管病を罹患した方)」での歯周病と心血管病の関連性を調べました(J Clin Periodontol. 2023;10.1111/jcpe.13792.)。

 

 

どんな研究?

東京医科歯科大学との共同研究です。

東京医科歯科大学附属病院の循環器内科に入院した患者さんを対象に、入院中に歯周病検査を行い、退院後の予後を調査しました。

連続1000症例をたった3人の歯周病専門医が検査した、という気合いの入ったデータです。

 

様々な尺度で測定した歯周病の重症度と、欠損歯の数をexposureとして解析しました。

outcomeは心血管病の再発です。約5年間フォローしました。

様々な交絡因子で調整したモデルで評価しました。

 

 

結果は?

なんと、歯周病のどの指標も心血管病の再発と関連が全然ありませんでした。

欠損歯の数は、心血管病の再発と強く関連しました。

 

 

解釈は?

これは解釈が少しトリッキーです。

だって、歯周病が悪くなりすぎたら歯が抜けてしまうから

歯周病の重症度測定ができているということは、最重症までいっていない(欠損歯となっていない)歯のステータスをみているわけです。

すると、歯周病と心血管病の再発に因果関係がないかは、なんとも言えません(すみません)。

少なくとも言えることは、欠損歯となるほど歯のコンディションが悪いと心血管病の再発リスクが高い、ということです。

 

しかし実際、二次予防の集団では歯周病の重症度はそれほど影響がない可能性もあります。

心血管病の再発に関しては、歯周病以外の要素がかなり影響力をもってきます。

その際たるものは、例えばそもそもの心疾患の重症度だったり、薬のアドヒアランスだったりします。

この状況では、動脈硬化の進展の一部として考えられる歯周病の影響は、さほど大きくなくても、違和感はありません。

 

そして因果関係を議論するにあたっては、その介入法が重要です。

歯周病に対しては歯周病治療という介入法があります

これは欠損歯を防ぐ効果が立証されており、そのような観点から言うと効果が見込まれそうです。

ただ、歯周病と心血管疾患についてはconfounderが多すぎて調整できないため、ランダム化比較試験が必要です。

本研究からも因果関係は言えません。

 

 

結論

歯周病がどの程度心血管病の二次予防で重要かはいまいち定かでない。

しかし、歯周病予防・治療をしっかり行い、欠損歯が増えないようにすることは、おそらく心血管病予防の観点からも良い。

因果関係をいうにはランダム化比較試験が必要。

ではまた。

-論文解説

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